複雑・ファジー小説
- Re: アセンション ( No.26 )
- 日時: 2012/09/28 18:25
- 名前: デミグラス (ID: .bb/xHHq)
大部屋を挟んで、鉢合わせになった2組の兵士たち。片方は10人、対してもう片方はたった2人。同じ条件でバカ正直に突っ込んでいく後者は、自殺志望者か、英雄気取りの能無し新兵くらいだ。だが、この2人はもちろんそんな愚者ではない。
「Era! Son compaeros! No te pierdas de ninguna manera! 」
恐らくリーダー格であろう最前に立っていた兵士が、一瞬の沈黙だが、数分のように感じられたそれを打ち破る。直後に、後方の兵士達が前方に移動、通路を塞ぐように大部屋に左右に展開すると、全員がAKを構え発砲。
叫び声とほぼ同時に2人組は、勢いよく前方に走り出し、ダニエルが彼らが通ってきた通路に最も近いテーブルを蹴り倒すと、2人は辺り一面が木造の部屋に似つかわしくない金属製のそのテーブルに屈んで隠れる。そのコンマ数秒後、激しい連続した金属音がけたたましく鳴り響く。蜂の巣になるのはギリギリさけられた。
盾にするには幅、高さ共に十分過ぎるテーブル、壁に貼り付けられいくつものマーカーが施された地図、更に部屋の大きさから、この大部屋が会議室かそれに近しいものということは容易に想像がついた。
「覚えたばかりのロシア語の次はスペイン語か……」
テーブルを介して、銃弾の嵐に見舞われているデイビットが呆れたように口を開く。
今作戦で最初に見つかったあの兵士のように、キューバの都市部では公用語のスペイン語だけでなく、英語も用いられていると聞いたことがあったが、期待したのが間違いだった。
今回の敵軍に話が筒抜けになるような英語を、そう易々と使うはずがないのだ。
「どうせ奴らが英語で喋ってても状況は変わらないさ……そんなことより早く抜け出さないと、心臓より先に耳が潰れそうだ」
そんなデイビットに対して、最もな正論がダニエルの口から吐き出される。
「じゃあ何かアイデア出してくれ!」
一向に鳴り止まない騒音に、半ばイライラし始めたデイビット。
それを余所にテーブルから顔を出さないで済む後方と左右の範囲内で、部屋の構造を確認していたダニエルは何かを思い出したように唐突に小声で話を始めた。
「あそこに扉があるだろう。さっき廊下を通った時に気づいたんだが、この大部屋を囲むように周囲にも通路がある。恐らくあの扉から通路に出られるはずだ。奴らは俺たちに気を取られてるから、そこまで意識はいってないはず。俺が通路を通って奴らの後ろをとるから、奴らの気を引いといてくれ。」