複雑・ファジー小説
- Re: アセンション ( No.37 )
- 日時: 2012/10/24 22:18
- 名前: デミグラス (ID: .bb/xHHq)
同時刻……
想像以上の敷地の広さに時間がかかったが、敵兵を一度も発見することなく、建物の東の非常用階段から2階へと侵入したライアンとカール。
「中尉、何かおかしくないですか?俺たちの存在は明らかに悟られてるのに、誰1人として外周を見回りしてないなんて……」
非常用階段を登って、扉から内部へと入ったカールが、先導しているライアンの背中に、小声でそう問い掛ける。
「あぁ。奴等、何か仕組んでるのかもしれないな」
カールの疑問はもっともだ。
自軍の大将が居る拠点に、今まさに敵が侵攻してきたというのにも関わらず、建物周辺に誰1人して配置されていないのはおかしい。
無論、内部に人員を固めるのは常套手段、というよりも当たり前と言えるだろう。
しかし、外の警戒体勢が甘くなって、敵の増援を許すようなことがあれば、それこそ本末転倒だ。
そもそも、入り口近辺にたった2人しかあたっていないという、彼等が発見される直前の敵陣の配置にも違和感があった。
更に、最初に彼等を発見した兵士のあの言葉。
『いたぞ!! アメリカ兵だ!!』
……いたぞ?
まるで彼等が来ることを初めから分かっていたような。
「とにかく今はカストロだ。本部も、どれだけカストロを留めていられるか分からない」
隠密機動でない限り、通常、侵入からこれほど時間が経っていれば目標は間違いなく逃走する。
それでも彼等がカストロを捕らえようと先へ進むのは、CIA本部による工作があるからだ。
本部はキューバ軍の使用する無線周波をジャック、キューバ軍の一兵士になりすまし、敵がすぐそこまで迫っているなどと伝えて、カストロが部屋から出ないように誘導している……だろう。
このような乗っとりを恐れ、必要最低限のセキュリティしか施していない建物内部の事情を特定する手段は、彼等が直接確認する以外ないのだ。