複雑・ファジー小説

Re: the Special Key ring 『オリキャラ募集』 ( No.11 )
日時: 2012/10/09 14:21
名前: 氷空 ◆UQtQExcjWY (ID: l/xDenkt)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「おっはよー! 宿題全部終わったー?」
「おはよー。開口一番宿題って、まだ終わってないんだ」
「そー。だから悪いけど写させてー」

 賑やかな朝。あちらこちらで楽しそうな声が響く。
 それもその筈。今日は9月1日、夏休み明けの始業日だ。1ヶ月も会ってなければ、会話も弾む。

「そーいえばさー、休み明けって言ったら転入生じゃん? 5年にもいるかな?」
「どうだろうね。2年生には1人いるって、職員室の前歩いてたら聞こえたよ」

 転入生。その言葉が、俺の耳に入ってくる。
 昨日会った少女は、同じ年頃だった。もしかしたら、転入生として学校でばったり遭遇——

「なあ、生徒会長さんいる?」

 思考はそこで遮られた。教室の開いたドアから、男子が顔を覗かせている。知らない顔ということは、恐らく他学年。
 生徒会長——つまりは俺をお呼びということらしい。そう呼ばれるのは、あまり好きではないが。

「秋野くん? もう来てるよ。あき——」
「うん、俺の耳にも届いてるから。呼ばなくても分かるって」

 女子のテンションって、謎だ。男子が会話に入ると怒るくせに、誰かが呼びに来たら真っ先に反応する。それが社交辞令なのかもしれないけど。

「で、誰がどこに来いって?」

 朝っぱら、それも始業式の前に呼ばれる理由など、大方見当がつく。始業式でスピーチをさせられるか、生徒代表として転入生の前に引きずり出されるか。
 ——どちらもあまり好ましくない。誰かの前に立つのが苦手な訳ではないけど、やらないで済むんだったら、そのほうがいい。

「お、流石。呼んでたのは長沼先生。……応接室って言ってたっけな」

 「調子に乗るな」と、思わずそう言いたくなる。
 相手は俺のことを知っているかもしれない。だが、俺から見たら同じ学校の生徒というだけだ。妙に馴れ馴れしい口調に、イライラしてしまう。

「長沼先生ね」

 それだけ言い残し、教室を後にする。時計を見れば、8時10分を示していた。



「——失礼します」

 頭を下げ、応接室に入る。狭い室内には一人掛けのソファ二つと、二人掛けのソファが向い合せにある。色は共に黒、表面の生地は本革だろうか。
 その間には、よくある木製のテーブルが置いてある。脚に彫刻の施されたそれは、高級品であることを窺わせてくれる。
 そしてその奥、朝日の入る窓辺に長沼先生は立っていた。ドアを閉めるのと同時に、こちらに向き直る。

「お早う、秋野くん。実は生徒会長である君に、折り入って話したい事があってね——」

 まあ、取りあえず腰を掛けてくれるかな。そう言って、長沼先生はソファに座った。俺もそれに倣い、向かいの二人掛けソファに座る。
 先生の口から、小さく息が漏れる。折り入って話したい事——何か話しにくい事なのだろうか。

「秋野くん」

 しばしの沈黙の後、まるで覚悟を決めたように長沼先生が口を開く。その目は、しっかりと俺に向けられていた。
 「はい」と答えた俺の口は、なぜだか若干震えていた。

「例年、この夏休み明けの始業日には、他校からの転入生がやってきます。当然、今年もそうなのですが——」

 ——その転入生から一人、生徒会に所属してもらいたいと思う子がいるわけですよ。

(……え?)

 思わぬ言葉に、頭が真っ白になる。
 転入生が生徒会に? なんでそんないきなり……訂正しよう、頭がパニックに陥った。
 思考のまとまらない俺に、長沼先生は言葉を続ける。

「20分頃までに来てもらえればいい。と、言っていますから、もうそろそろ来る頃でしょう」

 コンッ、コンッ、コンッ——
 示し合わせたかのように、綺麗な3拍子が鳴った。続いて、ドアがゆっくりと開く。

 あっ——と、思わず声が漏れそうになった。
 開いたドアから覗いた人影。それは、見覚えのある姿だった。
 真新しい制服に身を包み、下ろした長いダークブラウンの髪が小さく揺れている。昨日の少女が、そこに立っていた。