複雑・ファジー小説

Re: the Special Key ring 『オリキャラ募集』 ( No.12 )
日時: 2012/10/09 13:37
名前: 氷空 ◆UQtQExcjWY (ID: l/xDenkt)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

「江夏陽菜です。よろしくお願いします」

 クラスメイトの前で頭を下げる少女。あまりに丁寧なので、髪が床に着きそうになる。
 彼女は拍手に迎え入れられ、担任が彼女——江夏さんにクラスの事を説明する。転入生にクラスがざわめく中、所々でささやき声が交わされる。

「うわー、栗毛じゃん。学校の許可取ってんのかな?」
「さすがに地毛でしょ。そうじゃないと門前払いだって」

 冷やかしか、はたまた嫉妬か。どちらにせよ、聞いていて気分のいいものじゃない。
 この学校、比較的新しい私立校なのだが、服装頭髪に関する校則は厳しい。だから、黒髪以外は皆珍しく見えるのだろう。

「——じゃあ、席はあそこの空いてる席で。分からない事があったら、隣に聞いてくれ」

 担任の言葉に、江夏さんは指された席に座った。窓側の列の一番後ろ、つまり、俺の隣に。
 彼女が俺に向かって、小さく会釈をする。それに対し、よろしく。と同じく頭を下げる。まるで、初めましてと言うように——



「悪いですけど、お断りさせてもらってもよろしいですか?」

 応接室で、江夏さんははっきりとそう言った。不承の様子の俺に、長沼先生が熱心に語るのを遮っての一言だった。
 その言葉に、先生の動きが止まる。畳みかけるように、彼女は言葉を続けた。

「私を評価してくださるのは嬉しいんですけど、私では生徒会——それも副会長というのは役不足だと思います」

 私立、四方字学園。附属幼稚園に、初等部から高等部の一貫校、そして大学という、非常に大きな学校である。
 生徒の自主性を生かす学校として、また、設立十数年で全国屈指の頭脳校として、その人気は非常に高い。四方字学園生、それが1つのステータスとなる。

 そんな背景を持つこの学校では、初等部から生徒会制を導入している。中等部、高等部では生徒自らの立候補制であり、初等部は教師推薦制。
 小学生の時期といえば肉体的にはもちろん、精神的にもまだ発達途中。何があるか分からない為、教師が太鼓判を押せる生徒でないと任せられないらしい。
 つまり、生徒会に入るという事は教師がその生徒を認めるという事である。それを転入早々に——通常、有り得ない話である。

「ふむ……そうですか。——あなたが以前通っていた学校からの書類では、充分その素質があると思いましたが……」

 長沼先生の目が宙を泳ぐ。そこまでして、彼女を生徒会に、それも副会長に就けたいのだろうか。
 そこでふと、ある事に気がついた。先生は彼女を、生徒会副会長にしようと画策している。それもおそらく、本気で。
 だが、今の生徒会はどうなるのだろうか。いずれの職も、就いている人がいる。当然、副会長も——

「先生、もしかして、現職の副会長——杉野に何かあったんですか?」

 その言葉に、長沼先生の肩が小さく震えた。眉間にしわが寄る。
 ビンゴ——直感がそう告げた。

「秋野くん? なぜそう思うのですか? 私はただ、彼女は生徒会に入るべきだと思っただけで——」

 そこでチャイムの音が鳴り、結局うやむやの中、話は終わった。何か隠している事があるようだったが、それ以上は分からなかった。
 転入生もいるという事で、担任が応接室に迎えに来た。教室に向かう途中、チラと覗き見た彼女の顔は、何か考えているように見えた。