複雑・ファジー小説
- Re: Special Key ring 『オリキャラ募集中!』 ( No.13 )
- 日時: 2012/10/09 13:49
- 名前: 氷空 ◆UQtQExcjWY (ID: l/xDenkt)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
始業式も終わり、教室には人だかりができていた。その中心は当然、江夏さん。
「ここに転入してきたって事は、相当成績優秀なんだね」
「家ってどの辺? よかったら今日いっしょに帰らない?」
「きれいな栗毛だねー。生徒指導の先生に目、付けられないように気をつけなよ」
果たして彼女はどこまで聞き取れているんだろうか。聖徳太子じゃあるまいし、自分勝手に聞いてくるうちの半分も聞けてないだろう。
実際、彼女の声はほとんど聞こえてこない。自分たちが原因で彼女が困ってるって、気づこうか、クラスメイト諸君。
「お前ら、席に着け。帰りのホームルームやるぞ」
ドアを開けながら担任が入ってくる。その様子に、やれやれといった感じでみんな席に着く。
クラス長の号令でホームルームが始まるが、先生の話を聞いている生徒など誰もいない。みんな好き勝手に、かつ先生の話を遮らない程度に好き勝手している。
ぼーっと先生の話を聞いていると、右から紙切れが回ってきた。表には丸い文字で『さなえ』と書いてある。
『今日、生徒会ある? なかったらいっしょに帰らない?』
開いた紙切れには、小さくそう書いてあった。小さなため息をつき、細かく破り捨てる。
幼馴染からの誘いは久しぶりだが、今は長期休暇明け。生徒会が休めるわけもない。
「じゃあ、今日はここまで……そういえば江夏、お前、今日の帰り大丈夫か?」
担任の言葉に、教室が静まり返る。視線が集中するのは、やはり江夏さん。
別に心配しているというわけでもないだろう。むしろここで言葉を濁すようなら、一緒に帰りたい。その期待じゃないだろうか。
「あ……大丈夫です。さっき宮下さんと一緒に帰る約束をしましたから」
「そうか。じゃあ宮下、転入生の帰りは頼んだぞ」
……はい? 君たち、いつそんな約束したの? さっきの言葉の嵐で、まさか約束できるわけもないでしょ?
頭にはてなが大量に浮かぶ中、どこか納得している自分がいた。だからさっきの手紙だったのだろう、と。
さっきの手紙は単純に『転入生といっしょに帰るけどどう?』という主張だったわけだ。……乗ると思ったのだろうか。
ともかく、江夏さんは宮下と共に下校する。釈然としない点は多々あるが、既に決定事項らしい。
二人が帰るのを見ながら、俺は生徒会室へと向かった。
「陽菜ちゃん、いつこっちに引っ越してきたの?」
「8月の終わり。だからまだ、家の中が片づいてないの」
「そうなんだ。よかったら手伝おっか?」
話しながらの帰り道。咲苗ちゃんが笑顔で話しかけてくる。それに私も、笑顔で答える。
楽しくないわけがない。転入して早々、誰かと一緒に笑いながら帰れるなんて、思っていなかった。
けど、得体の知れない不安が、徐々に胸の中に襲ってくる。これ以上一緒に帰ってはいけない。心が、そう警鐘を鳴らす。
「……陽菜ちゃん? 塞ぎ込んでどうしたの?」
咲苗ちゃんが顔を覗き込んでくる。その顔には、まるで『心配』と書かれているよう。
いけない、どうやら顔に出ていたようだ。今はまだ、彼女を心配させるわけにはいかない。
「ううん! 何にもない……よ……」
最後のほうは言葉にならなかった。角を曲がった先、視線が捉えたのは複数の男たち。昨日、丘で叩きのめした筈の連中だった。