複雑・ファジー小説

Re: the Special Key ring ( No.3 )
日時: 2012/10/09 14:20
名前: 氷空 ◆UQtQExcjWY (ID: l/xDenkt)

 辺りに静寂が流れ、葉っぱの擦れ合う音だけが響く。少女は無表情のまま、辺りを見渡した。まるで、何かを探しているように。
 ディフェクターが消えた今、姿を見せてもよかった。声をかけ、何をしているか聞くこともできた。
 だが、何かがそうさせなかった。体を強張らせ、少女がここを去るのを待っていた。
 その理由を、俺はすぐに知ることになる。

 僅かの後、少女は息を吐いた。顔には若干の安堵が見られる。
 なるほど、ディフェクターが他にいないか確認していたらしい。陰から再び出てこないか、考えれば確かに心配になる。
 もし、急に絡まれたとしたら、再びが起きないか、気にもなるだろう。

(大丈夫みたいだし、帰るかな。宮下も気になってるだろうし……)

 パキッ——
 安堵もつかの間、小さな音が響いた。足元に転がっていた、小枝の折れる音。
 刹那、ディフェクターも怯えた少女の本質が、姿を見せた。



 隠れていた茂みが切れた。俺のいる場所からほんの数センチばかり左が、まるで獣道のように途切れる。
 続いて右側。3分割された茂みに、隠れ続けることなど到底できない。

「まだいたんだ……」

 少女が小さくつぶやく。言葉からして、俺をディフェクターの一員だと思っているようだ。
 ならば、まずやるべきは彼女の誤解を解くこと。多分、話せばすぐに分かってもらえるだろう。
 小さく息を吐く。茂みの陰からゆっくりと出て、彼女に姿を見せた。

「俺は……誰かがディフェクターに絡まれてるって——」

 続きは声にならなかった。少女の腕が動き、とっさに体を屈める。すぐ上で、空を切る音がした。
 彼女の手には、1メートル近いロッド。それを、彼女は軽々と振るう。
 そんなロッドの先には大きな丸い飾り。反対側は、先端付近に大小2個の板が付いている。サイズを除けば、まるでアンティーク風の鍵だ。

(っつ……このままだと、話しすらできないし……)

 避け続けるのにも体力を使う。取りあえず腕を止めてくれれば手っ取り早いのだが、そんな気配は毛頭ない。
 止まらないのなら、止めるしかない。ロッドの軌道を見極めながら、腰元のチェーンに右手を伸ばす。

 ガキィィン——!!
 金属のぶつかり合う、高い音。鍵型ロッドの溝にはまるようにして、1本の剣がロッドを抑えていた。