複雑・ファジー小説

Re: Special Key ring 『オリキャラ募集中!』 ( No.45 )
日時: 2012/10/14 21:21
名前: 氷空 ◆UQtQExcjWY (ID: l/xDenkt)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

 数多のトランプが空を滑った。その多くが不規則な動きでひらひらと舞う葉を切り裂く中、一枚のトランプだけが一直線に飛んでいく。
 それは少女の髪を結っていた鉢巻きに当たり、白かったそれは赤く染まった。トランプは、ジョーカーの絵を見せながら床に落ちる。

「はい、そこまでー。今のバトル、戸高の勝ちー!」

 歓喜と落胆。二種類の、クラスメートの声が入り混じる。
 呑気にトーナメントが進行する一方で、私は真剣な眼差しでそれを見ていたことだろう。
 今ここにいる24人は、1人を除いてみんな初めての相手の筈。なら、情報を収集して損はない。

(今のは……『魔法』のチャームかな? 『風』属性で、多分風圧操作。じゃないと、窓も閉めきってある体育館であの動きはしないよね)

 チャームを知ろうとして何が分かるか。チャームのデータはもちろんとして、一番はバトルセンスだとつくづく思う。
 例えば今のだと、戸高くんのチャームは2つ。1つはトランプのチャームで何かを切り裂く力を持ち、もう1つは風属性の魔法チャームだと想像がつく。
 もちろん、風属性のトランプチャームという可能性も考えられるが、それだと説明のつかないことができてしまうのだ。

 この場合、トランプチャームは『道具』のチャームに分類される。
 そして『道具』チャームの特徴として、属性のあるものはその『全体』に属性をまとう。この状況なら、トランプの一枚一枚が風をまとうことになる。
 トランプが風をまとえばどうなるか。刃を切り裂く際、トランプの風圧に葉が飛ばされるか、あるいは引き寄せられる。
 飛ばされてもそれを上回れれば切れないことはないし、引き寄せられるなら容易に切れる。だがあの時、葉はそのいずれの動きも見せなかった。

 切り裂かれる一瞬に何の変化もなかった以上、それは『道具』ではないのだ。少なくとも、レベルⅢ以下のチャームでは有り得ない。
 レベルⅣのチャームならそれも可能なのかもしれないが、小学生でレベルⅣを扱える者など、私は今まで2人しか知らない。
 昨日、偶然にそれを見せてくれたのは、審判をしている彼。そしてもう1人は——

「……陽菜ちゃん? 次、私たちだから準備しないと」
「えっ……あ、そっか。そうじゃないとスムーズに進まないもんね」

 どうやら、情報収集もここまでのようで。
 どの道このバトルの勝者とは、順調に勝ち進んで3戦目。体が温まれば、データの有無なんて関係ないのだし。
 バトル中、無性にせり上がってくる狂気のようなものに、気づいてないわけじゃない。一度それに飲まれれば、すべてが何の意味も持たなくなって。

 そこまで考えて、思わず身震いした。なんとなく、顔が青くなっている気がする。
 本当は、怖い。得体の知れない何かに囚われているようで、自分じゃない自分が何をするか分からなくて、とてつもなく怖い。
 できることなら誰にも——特に咲苗ちゃんとは仲良くなったばかりだし、見せたくはない。これが出てくる前に済ませたい。
 だけど、今の私の人生を作ってくれているのも、これなのであって。だから——

「……行こう」

 決着のついた場を前に、誰にも聞こえぬよう静かに、そして、自分自身に言い聞かせるように言葉を吐いた。