複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.10 )
- 日時: 2012/09/22 20:55
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
+7+
三春を試しているつもりではない。ただ、いまいち三春の考えていることが分からないんだ。
三春は僕の恋人、だった。だった、なのかな。きっと三春はまだ僕の恋人のつもりだ。僕は前、記憶を失っていない頃は三春を愛していたのだろう。そして、三春も僕のことを愛していただろう。今も、僕のことを愛しているだろう。
でも僕はもう違う。違うと言い切ってしまえる。僕は三春を愛していない。だって、三春が分からないから。三春と会って、まだ少ししかたっていないから。そんな人を愛しているなんて言えない。言えるはずがないから。
三春は僕の手を見て、眉間に皺を寄せた。やんわりと、僕の指を握る。
「……秋、秋はね」
まっすぐに見つめてくる三春の目。三春に出会ってから初めて見せた表情だった。真面目で僕にとって都合の悪いことを話すという目。初めて感じる三春の真剣な空気に、自然と体に力が入る。今までの三春はフワフワしていて、真剣みが感じられなかった。
三春は、僕のことを気遣ってくれる。それが嬉しい。
「秋は、行方不明だったのよ、ずっと」
行方不明。その言葉で、すべて納得した。なんで僕があんなに汚れていたのか。僕は、行方不明だったのか。
三春は口を開いて、閉じる。何か言いかけて、止める。三春は顔を伏せた。三春の自信の無い顔。それを見て、僕も不安になる。
三春は申し訳なさそうにしながら、僕に抱き着いてきた。
女の子の体は、すごく柔らかい。
三春は僕よりも結構背が低いから、三春の顔は僕の胸の下あたりだ。僕の背が高いからかもしれない。
三春はギュッと僕の背中に腕を回す。腰のバスタオルがとれそうだ。それにドキドキする。素肌で感じる、三春。心臓が暴れている。
「だから、私嬉しかったの。やっと見つかったから。やっと会えたから。秋が、帰ってきてくれたから。だから、秋のこと全然考えてなくて、ごめんね」
最後の謝罪の意味が僕にはよく分からなくて、僕は戸惑った。なんで謝るのだろう。僕は三春に優しくしてもらっている。それで満足なのに。
満足、なのに。
満足なのに、なんで僕は三春を抱きしめ返すことが、できないのだろう。