複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.11 )
- 日時: 2013/01/16 16:29
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
+8+
「だから、なんで指輪をしていないのかは、分からないの」
悲しそうな顔を浮かべながら、三春が僕から離れる。僕を見上げる目には、うっすらと涙の膜が張っていた。
それに、なんでか僕の心が軋んだ。なんだろう、この違和感は。でもきっといつかこのなんだろうも、解決される時が来る。僕はいつかきっと、すべてを思い出す。その時まで、疑問は放っておこう。そうじゃないと、全部気になってしまって穏やかに暮らすことなんか、できなくなってしまうから。
「そうなの。良いんだ、三春のせいじゃないから」
僕の身には、きっと良くないことが起こったんだ。
婚約指輪を失くしたり、体中を汚したりするくらいの、良くないこと。行方不明になったのだから、良くないこと。
三春は指の腹で涙を拭っている。
僕が三春を泣かせたんだ。そう思うとちょっと罪悪感が出てくる。
僕は三春の手を取って、指輪をさすった。
慰めるように、謝るかのように。
「僕が全部思い出したら、また、やり直すから」
だから、待ってて欲しい。
僕が全部思い出すまで。僕がすべてに納得するまで。僕が僕を認められるまで。僕が三春を心から信じられるまで。そうなった時、きっと僕は完成するから。僕が完成したなら、また結婚しようだの、そんな腐りそうなほど甘い言葉で三春を迎えに行くから。今は僕を待っていてほしい。僕が三春に追いつくまで。
そんな硬い意志のようなものを眼差しに含んで、三春を見下ろす。三春は驚いたようにして、頷いてくれた。
良かった。これで待ってなんかいられないって言われたら、僕は困ってしまったから。
「……秋、ありがとう」
僕に向かって目を細めて、幸せそうに笑う三春。儚くて、そして寂しそうなその笑顔は、熱を待っているかのようだった。
三春は今きっと、淋しいんだろうな。恋人である僕が行方不明になって、そして帰って来たと思ったら全部忘れていて、婚約指輪を失くしていたなんて。普通の人なら耐える事なんかできないのに。
三春はすごく強いんだろうな。
そして、僕を愛してくれているんだ。
「ううん。三春こそ、ありがとう」