複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.12 )
日時: 2012/09/28 21:15
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+9+


僕を置いて部屋を出ていく三春の背中を、箸を動かしながら見送る。三春は何でも用事がある様で、出かけなくてはいけないらしい。僕は腰にバスタオル一枚という間抜けな格好で、割り箸を持っている。
三春も大変だろう。僕も早く、記憶を取り戻さないと。僕のために三春は頑張ってくれているから。
明日の予定もしっかり決めよう。三春が言ったわけではないけど、僕に関連している場所に連れて行って貰おう。そうすれば何か、思い出すかもしれないから。
疲れているだろうから、ベッドは勝手に使って良いと三春は言っていた。
僕はあんまり食欲がなかったので、半分近く炒め物を残して、ラップをかけた。ごはんは何とか全部口に入れて、咀嚼しつつベッドに横たわる。
すぐに眠たくなったので、米をすべて飲み込んでから、意識を手放した。

 + + + +


あーあーあーあー。ん、あー。
良い感じ。よしよし。一発風呂には入りたかったけど、まあ仕方ない。風呂入るタイミグじゃなかったし。臭うかなー、汗かいたからなー。最近まだ暑いし。蝉もまだ鳴いて居るし。帽子でもかぶって来た方がよかったかもな。
めんどくさい、いいや。どうせ戻れないんだし。
私はできるだけ足をきびきびと動かしながら、道路を歩く。アスファルトで靴が溶けそうだ。そこからじわじわと体まで進行しそう。
そんな馬鹿なことを考えていないと、嫌なことを思い出してしまいそうだ。
ジメジメ。いやな感じ。

もう何度も押しているインターホンを指で押す。
しばらくしてから、品の良さそうな顔をしたおばさんが出てきた。私は髪を耳にかけてから、軽く頭を下げる。

「あら、三春ちゃん」

「お久しぶりです」

得意の笑顔を浮かべれば、おばさんも柔らかく笑う。
化粧をしていなくても、この人は美人だ。良いなぁ。
私もこんな風になりたい。

「そんな久しぶりでもないじゃない。さ、暑いでしょ、上がって」

「ありがとうございます」

気を使わせてしまって悪いな。私の額の汗を見ながら、おばさんはドアを全開にしてくれる。
片付いた玄関を進んで、広いリビングへの扉を開く。クーラーがかかっているのか、涼しい。
助かるなぁ。本当に。
おばさんはキッチンで麦茶をコップに注いでいる。

「……あの、築さんは」

私はソファに腰を下ろして、姿勢を正す。
私は昔からこのおばさんの娘さんの築と仲が良い。築は私と同じ大学に入学したものの、途中でやめてしまった。なんでも事情があるらしい。
詳しくは、私にも話してはくれなかった。

「いるわよ、呼んでくるわ」

すいません、そんなことを言う間もなくおばさんは麦茶を置いて、リビングを出て行ってしまった。
私は立ち上がって、麦茶をソファの前のテーブルに置く。一口麦茶を飲もうとした時、リビングの扉が開いた。
コップを持ったまま振り返ると、見慣れた顔の男の子が扉を開いたまま私を見ていた。

「あ、孤独君」

「……っす」