複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.13 )
日時: 2012/10/07 10:01
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)


+10+


孤独君とは、私の親友である築のただ一人の弟だ。
築とは似ていない染めていなくても茶色い髪。私は昔の築の髪の方が好きだった。綺麗な黒髪。それを築は高校の二年に茶色く染めてしまったのだ。あのときは褒めておいたけど、本音は染めてなんか欲しくなかった。きれいな髪だったのに、そのせいで髪はいたんでしまって。
孤独君は片手に折りたたみ式の携帯を持っていた。
私に挨拶をするかのように軽く頭を下げる。そしてリビングを見渡した。

「あ、お母さんなら二階」

「……あ、そうなんすか」

なるべく私と話したくないかのような態度。そこは昔から変わっていなくて、気に入らない。
私と関わるのが嫌いなのだ、この子は。私と自分の味方である築が仲良くしているのが多分、気に入らないのだろう。私が苦しそうな築を救わないのが不満なのだろう。
まぁ、関係ないけど。

私は麦茶で喉を潤しつつ、可愛くないね、なんていう言葉を胃に戻す。

「バイトはどう? 調子良い? いい先輩とかいる?」

「はい」

なんでか、そこだけは嬉しそうに返事をして、私にもう一度頭を下げて孤独君は二階へと上がっていった。
その足音を聞いていると降りてくる足音がした。
築みたい。おばさんは居ないようだ。二つの足音が止まって、しばらくしてから再び動き出す。
一言二言、言葉を交わしたのだろう。

しばらくしてから、扉が開いたので振り返る。

「築、ごめんね、何度も何度も」

築は首を横に振って、すっかり疲れたような笑みを浮かべた。その痛々しい表情から目を逸らさずに、私はおばさんの分だったであろう麦茶を、向かいに座った築の方に押した。

「良いんだよ。三春、元気だった?」

「ぼちぼちー」

築は麦茶を飲まずに、コップの中の小さな氷を見つめている。
私はその築に向かって、深く頭を下げた。ガラスのテーブルにも手を付けて、深々と。誠意をこめて。
本当にすまないと思っている。本当に。

「お金、また貸してくださいっ」

私が来たということは、もうすでにそういうことだって築は思っているんだろう。
私は昔、と言っても最近だが、お金を貸してもらった。
私一人分が生活するには不便は無いけど、私のため以外のお金も必要になってしまったから。
築は理由も追及しないでくれる。それが心地良い。だから、築は好きなのだ。

「三春、大変そうだね。良いよ、ちゃんと返して頂戴ね、三春」

顔を上げた私に、築は笑ってくれた。
その頬には、ガーゼが貼ってあった。
また、怪我したのか。

私は、もう一度、築に頭を下げる。何度でも、頭を下げたい気分だ。お世話になりすぎているから。
いつか、きっと金は返す。絶対だ。