複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.14 )
日時: 2013/01/16 16:31
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


+11+


親友である築からお金を借りて、私は一直線に家に戻った。おばさんへのお礼は言伝で頼んで、小走りで我が家を目指す。
私は一人暮らしだったから、秋の食器や服などをたくさん買わないといけない。そのためにお金が必要だった。
秋は疲れているだろうから、すぐ寝るだろう。それを見越して家に置いてきたのだが、内心は不安だった。
今の秋は、昔の秋じゃない。私が予想する範囲だけの行動をとってくれるわけじゃない。一言にいえば、何をしでかすか全く分かっていないのだ。
秋の中の私の情報は少ないだろう。皆無に等しい。それは、私も同じだ。私の中の秋と、今の秋は全く違うから、情報は皆無。唯一言えることは、秋の前の姿を秋本人は知らないと言うことだけ。

私は階段を上がって、自分の部屋を目指す。ポケットから鍵を取り出して、慣れた手つきで鍵を開けた。
電気は消えて、部屋は薄暗かった。
しまった、帰りに何か食べられるものを買いに行けばよかった。そんなことを後悔しながら、電気を付けないでベッドに近寄ると、思っていた通り秋は静かな寝息を立てていた。
少しほっとして胸を撫で下ろす。
テーブルの上に残っていたすっかり冷めた炒め物を冷蔵庫にしまって、そのままだった茶碗を洗う。やりっぱなしなのが少し癪に触るけれど、慣れていない家なのだから仕方がないだろう。
勝手に人の家の物を触っては悪いとか考えてくれたんだろうな。だとしたら、部屋の戸棚とか漁っていないって事で良いだろう。
良かった。私だってほぼ他人と化した秋に部屋を漁られるのは気分が良い物じゃない。
本当に、良かった。秋が大人しくて。

私は安らかに眠る秋の金髪を指でなぞる。
明日、仕事を休んであるから一緒に出かけよう。秋がここで暮らす準備をしよう。そして、この金髪も黒く染めてしまおう。
そうだ、それが良いや。

私はベッドの近くの床に腰を下ろして、カーペットの上に横たわる。まだまだ早いけれど、なんだか秋を見ていたら眠たくなってしまった。
今日は何だか疲れたから、寝てしまおう。

夏は、もうすぐ終わる。