複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.15 )
- 日時: 2012/10/05 23:21
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
+12+
君を見つけたのは、暑い暑い夏の日だった。
太陽はもう元気で元気で光を人類に分けてくれていた。蝉も元気に大合唱で、うるさいことうるさいこと。
汗が顎を伝うのを感じながら、道を歩いていた。
どこかに向かっていたはずで、それは結構自分にとって重要なことで忘れちゃいけないことだったのに、忘れちゃった。君を見つけて。
暑さなんて吹っ飛んだ。蝉の声なんてはるか遠くに呑まれた。時間もなくなった。
この世界には君しか居なくなった。この世界には君の出す音しかなくなった。そんな世界。そんな世界が一瞬で出来上がって、そして消えた。いや、消えちゃいない。隠れただけだ。この心臓の奥底に、世界は隠れた。
恋だ。これは恋だ。この感情は恋だ。恋以外に有り得ない。これは恋だ。君に恋をした。
暑い夏の日。
名も知らない君に鼓動を奪われた。
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喉がひりひりと痛む。寝起きにありがちな喉の痛みだ。風邪ではないだろう。
カーテンを捲る。この部屋には目のつくところに時計が無いから、外を見て予想をするしかない。
あたりは真っ暗だった。夜のようだ。
体を起こすと、カーペットに横たわって居る三春がいた。急いでベッドを降りて三春を跨ぐ。側に腰を下ろすと、まつ毛が何かで濡れていた。
なんだこれ。指で触ってみる。生暖かい。なんだろう、これ。透明。指の腹で伸ばしてみる。
あ、ああ。これ、涙だ。なんで泣いてんの。三春、なんで泣いてんの。ここが。ここがそうだ。寒いからね。そろそろ寒くなって来たからね。知らないけど。今の季節なんて知らないけど。でも、ちょっと硬いしね。三春は柔らかいけど。でも、辛いでしょ。
僕はそっと三春を抱きかかえる。お姫様みたい。
三春は小さく唸っただけで、目を開くことは無かった。今まで僕が寝ていたベッドに、三春を乗せる。そして、三春に背を向けるように横たわって目を閉じる。
眠れないだろうなぁ。眠たくないし。何より三春が側に居るから。
三春が泣いている理由なんか知らない。きっとどうせ怖い夢でも見てるんでしょ。
でも、起きたら忘れるから、そんなもの。すぐ忘れてしまうから。
でも、隣で夢を見てあげようか。
少しだけ、その夢を食べてあげようか。