複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.26 )
日時: 2012/10/27 17:07
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+23+


「秋、何をしていたの?」

美容院の前に戻ると、少しだけ怒って居るかのような顔をした三春が立って居た。僕は三春の姿を確認した後すぐに走り出した。三春を待たせてしまったようだ。
三春は僕の髪の毛を見て、悲しそうな顔をする。
僕の髪が金髪なのが、そんなに気に入らないのか。三春の顔を見るのが怖いな。三春を悲しませているのが僕だなんて、信じたくない。

「三春を探しに行ってて」

あの男の人のことは言わないで置いた。
言っておいた方が良いと思うけど、それじゃあ三春に頼りすぎだと思う。これはあくまで、僕個人の問題だ。三春はそりゃあ、僕のことを見ていたいだろうけど、僕だって子供じゃないし。一人だって大丈夫だ。でも、ご飯と寝床については三春に頼りたい。迷惑をかけすぎないように、うまいように利用する。
僕は最低だ。そんなのは分かっている。

「そう。……秋、なんで黒髪にしなかったの?」

三春はやっぱりそれが気になっているみたいで、僕の髪を触り始める。

責められている気分だ。僕は悪いことはしていない。そうだよ。悪いことは何にも、してないじゃないか。
僕は怯える必要なんかない。

「したく、なかった。僕、金髪が良い」

金髪が良いわけじゃない。これは嘘だ。僕は嘘をついている。ただ、三春の言うとおりに全部したくないだけで。
僕は三春のことが好きじゃない。愛していない。だから、三春の好みになる必要なんか、無いわけで。
僕の言葉に、やっぱり悲しそうな顔をする三春。がっかりしたような、失望したような顔。
僕はでも、怯えない。謝らない。僕は悪いことはしていない。断言できる。

「……秋がそう言うなら、私は何も言わないけど。でも、」

すんなり納得してくれた三春。この反応は意外だった。僕に何が何でも黒髪にさせると思っていたのに。妙に力んでいた僕が恥ずかしい。
僕の金髪から手を離して、三春は後ろで手を組んだ。

「何かあったら、言ってね」

何かってなんだろう。僕の身にいつか、三春に報告しなくちゃいけないことができるのかな。僕は、できれば静かな生活を送りたいんだけど。それは叶わないのかな。僕が記憶喪失だって時点で、それは叶わないことなのかな。

「……うん」

でもまあ、今はとりあえず返事をしておく。