複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.27 )
- 日時: 2012/11/09 17:52
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+24+
大きなデパートに連れて行ってくれるのかと思ったのに、結構小さなデパートだった。
今まで通り、三春に大人しくついていく。
周りを見渡すような勇気はない。さっきからいろんな人が僕を見ている、ような気がする。気のせいかもしれないけど、気になる。床しか見ることができない。三春の影を見ているだけで精いっぱいだ。
三春は普通の人みたいに堂々と歩いている。僕も、そんな風になりたい。
まだ、怖い。音だ。音が怖い。僕の周りを回る、音。まるで、僕を追い詰めるかのような音。
止めてくれ。止めてくれ。僕は何もしていない。何もしていないから。だから、止めてくれ。止めてくれって。僕は何もしてないから。何も。僕は悪くないんだ。許してって。僕は何もしていないって。僕は、僕は、悪くない。なんで、なんで、僕はだから、悪くないって。恐い、怖いんだよ。みんなが出す音が、どうしようもなく怖い。だから、つらいんだよ。僕を見ないで、僕の鼓膜を揺らさないで。僕を、僕を。
僕を——————許さないで。
「……秋?」
「みは、る。三春」
僕の顔を心配そうに覗きこんでくる三春の肩に触れる。
こうして居ないと、壊れてしまいそうだったから。
こうしないと、何か、変なことを考えてしまいそうだったから。
僕の手を振り払わない三春。
僕の様子に一番に気が付いてくれた三春。
僕は、誰なのだろう。三春に、謝らないと。お礼を言わないと。三春に迷惑をかけているから。三春は、僕のことを良くしてくれるから。
だから、僕も、頑張らないといけない。
僕も早く、自立できるようにならなくちゃいけない。三春が、僕のことを面倒だと思わないうちに、進まないと。進展しないといけないんだ。
僕は止まっているから。蹲って、ひざを抱えて、三春の道を邪魔して居る。僕がこうしていちゃあ、三春が前に進めない。
そう思わないと、そう思い込まないと、僕は進むどころか、立ち上がることもできなさそうだ。
「僕は、さ、悪いことをしたのかな」
意味が分からないことを言っている自覚はある。でも、そう感じた。
まるで、僕を責めているかのように、音は僕を壊していくのだ。まるで、針を皮膚に刺されていくかのような、小さな痛み。それが積み重なって、僕の皮膚を溶かしていく。
そんな音に、なんで僕は怯えているのか。僕と違って三春が堂々と歩いて居たのは、音に怯えていないから。それは、きっと普通のことだ。
人間なら普通のこと。だって、生まれた瞬間から、音を知っているのだから。
だから、おかしい。僕がこんなに音に怯えなくちゃいけない理由って、なんだ。
僕はなんで、こんなに汗をかいているんだ。
そろそろ秋になるから。夏は終わるから。最近ちょっと暑い日もあったけど、それでも確かに夏は死んだ。
そのはずだ。
「そうかもね」
言葉を濁す三春の目も、濁っているように見えた。
あぁ、僕もそういえば、こんな目をしていた。