複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.28 )
日時: 2012/11/14 20:13
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)


+25+


「何っ! なんなの! それ!」

僕は思い切り力を込めて、三春の肩を押した。三春の小さな体は男の僕の力の犠牲になって、その場に倒れこんでしまう。
三春は、目を丸くして僕を見上げていた。
周りの人の声が大きくなって、僕たちの方をちらちらと見始める。
僕の大声と、突き飛ばされて尻餅をついている三春は、こののどかなデパートに似合っていない。
僕は、でも後悔はしてなかった。
肩が激しく上下している。三春の目が煩わしい。

なんで、なんで。なんで、僕が望む声を出してくれないのか。なんで、僕を安心させてくれないのか。三春は、僕の味方じゃないのか。
僕は、そろそろ決定をしなくちゃいけない。三春を信じるのか、信じないのか。本当は、信じるのがいい。
でも、こんなことを言うんだ。
僕を安心させてくれないし。僕のピアスを引きちぎるし。自分のことを全然話してくれないし。僕のことも教えてくれないし。
尽くしてくれるけど。
でも、でも。僕は信じない。三春なんて、信じない。もう決めた。

三春は僕に手を伸ばして来ている。僕はそれを手で思いっきり叩いた。
再び響いた音に、一瞬だけデパートが静まり返る。少しの間だけだった。
また、僕たちを見て、指を差したり、にやにやしたり。
本当に、気に入らない。本当に最悪だ。
僕はくるりと三春に背を向けて歩き出した。

三春が、僕を否定した。三春は、僕が悪いことをしたって言った。そんなことないよって、笑って欲しかったのに。僕は悪いことなんかしていない。こんなに音が怖いのは、きっとまだ記憶がないからだ。そうに違いない。
僕はもう三春なんか信じないし。頼らない。僕一人で生きていけるはずも無いけど、三春を信じたくないから。
こんなの、味方じゃない。僕は、我儘だ。こんなに僕に優しくしてくれたのに。
それなのに、僕は。
罪悪感がようやく出てきて、デパートを振り返る。
いつの間にか美容院の近くに僕は居た。
デパートに戻ったら、三春は。三春は、どんな風に思うだろう。
僕を軽蔑しているだろうな。
そんなのは、嫌だ。また、三春のところに戻るなんて、。僕は、どうしたらいいんだろう。
三春の肩を押した、手を叩いた、そんな掌が痛い。なんで、あんなことをしてしまったんだ。あの場に居たくなかった。だって、三春が僕を否定するなんて。
そんなのは、認めたくなかった。

「よーぉ。秋くん」

小さくなっていた僕の背中を、誰かに叩かれた。びっくりして背筋が伸びる。
恐る恐る、振り返る。
するとそこには、短いスカートに黒いパンプス、そして黒いコートと白いブラウスを着た綺麗な女性が立っていた。
紅い唇が咥えているのは、どこかで見たような気がする煙草。その煙草のことを深く考える暇もなく、女性が僕の手を取った。
マニキュアで飾られた綺麗な手。化粧は濃すぎず、薄すぎず。綺麗な人だ。すごく、女の人らしくて。
きびきびと歩く姿は、どこか三春に似ている。

三春、どうしているかな。
三春のことも、女の人に引っ張られていくことに気を取られて、すぐに頭から消えた。