複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.30 )
- 日時: 2012/11/16 21:54
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+27+
聖さんの目は、まるで僕を試すかのような色をしている。僕はそんな目で僕を見る聖さんが、怖くてたまらなかった。口元は緩んで、笑っているのに。なぜか、汗が滴ってくるのを感じる。
バーテン服の男の店員は、僕らに関わるのは面倒だといわんばかりに、無表情で聖さんのグラスに酒を注ぐ。
僕は唾を飲み込んで、聖さんを見つめる。舐められるのは、嫌だから。情けない奴だって思われたくないから。
僕の表情を見て、聖さんが満足そうに髪を耳に掛けた。
長い睫は多分、つけ睫だと思う。黒染めしているかと思うくらいの黒い髪。ゆるく波を打つそれに、思わず見とれそうになる。
「聖さんは、僕を知っているんですか」
聖さんは信用できるのか。僕に都合の良い言葉を吐いてくれるのか。三春と違って。
僕は、嫌な奴だ。三春を信用したり、しなかったり。罵ったり、優しくしてみたり。そんな僕に、きっと三春はもう呆れていると思う。だから、もう三春のもとには帰れない。帰りたくない。帰ったところで、三春のあの言葉は消えない。
僕が、悪いことをしたかもしれないだって?ふざけるな。そんなはずは無い。そんなはずはないから、大丈夫だよって。言わなきゃいけないんだよ。三春はそうやって言わなきゃいけなかったのに。それなのに、僕を不安にさせるような言葉を言って。僕が、僕がもしも壊れちゃったらどうするつもりなの。
僕は、僕しか信用できないんだよ。三春も、信用したいのに。僕だって、三春のことは嫌いじゃないかもって思えてきたのに。それなのに、酷いよ。僕の期待を、裏切るなんて。最低。最低。
僕も、三春も。
最低な人間。
「知っているよ。前の君のことも」
聖さんは、そういってやっぱり柔らかく笑う。
三春の顔がちらつく。でも、聖さんの方がよっぽど信用できそうだ。だって、前の僕を知っているって言ってくれた。美人だし。僕に嘘はつかなそうだ。優しそうだし。
うん。
僕、この人についていくのが良いかもしれない。そうしようかな。
今度はゆっくりと酒を飲んでいく聖さん。それを見ていると、僕も飲みたくなってきた。飲めるかどうかは知らないけど。
ちょっとだけ、飲んでみようかな。
「僕が、記憶を失った原因とかは、分かりますか」
それが重要だった。
僕は、今の状況から抜け出したい。そう思っていると思う。記憶を取り戻すために、なんで記憶を失ったかを知らなくちゃいけない。手っ取り早いと思うから。
記憶を取り戻すために三春と散策をするはずだった。それももうできないかもしれない。
聖さんも、僕を知っている。なら、僕が行ったことがある場所も知っているはずだ。
聖さんに紹介して貰おうかな。
「……まあ、大体見当はつくかな」