複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.31 )
- 日時: 2012/11/17 17:59
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+28+
「ほ、本当ですか!?」
確証はなかった。だけど、聖さんは僕の望んだ答えを出してくれた。嬉しかった。
三春は、僕が行方不明だったって言った。つまり、聖さんはなんで僕が行方不明だったのかということを知っているということになる。
行方不明だった間に僕の記憶が無くなったと見て、間違いないだろうから。
きっと、逃げ出したくなるようなことがあったのだろう。それか、誰かに誘拐されたか。誘拐されたか、逃げた先で、何かあった。それで、僕の記憶は消えた。消されたか、自分で消したか。
どれだ。答えはどれだ。僕の記憶はどこだ。
そして、三春は本当に、僕と婚約をした恋人なのだろうか。
僕のしていたはずの婚約指輪は、一体どこにいったんだ。
聖さんは喜んでいる僕の姿を見て、なんだか満足そうに笑う。
大人っぽいのに、無邪気に笑うこともできる人だ。
「……秋くんは本当に記憶がないんだね」
それなのに、まるで悲しそうにした目を作る。
煙草の煙で肺を汚しながら、僕をやっぱり疑うような目で見るんだ。僕が記憶喪失じゃないって、どこかで思っていたんだ。そして今やっと、確信したんだ。信じてくれてなかったんだ。そこがショックで仕方がない。
でも、嘆いてなんかいられない。だって僕には、聖さんに聞かなくちゃいけないことがあるから。
聖さんは、どうして僕のことを知っているのか。
聖さんは、どこまで知っているのか。
「はい。教えてください。聖さんと僕は、一体どんな関係だったんですか? 僕は、なんで記憶を失ってしまったんですか?」
聖さんが、二杯目の酒を飲み干す。だけど、三杯目を店員が注ぐことは、無かった。
聖さんは、カウンター席から立ち上がった。そして、僕に近寄ってくる。
僕も思わず、立ち上がってしまう。少しだけ低い目線。だけど威圧感がある。聖さんは、僕の目の前まで来ていた。
そして、腰のあたりに手を伸ばして。
「残念ながら、秋くん。それは、知っちゃいけないことなんだよねぇ」
「……え……?」
顎に、何か添えられた。冷たくて、硬いもの。
聖さんの煙草を咥えた赤い唇が、下がっている。さっきとは違う暗くて厳しい顔で。
聖さんが持っている物は。
僕に突きつけている物は。
拳銃、だ。拳銃。
なんで、聖さんがこんな物を。
途端に、胃の中の物がせりあがって来る。口の中に酸っぱいような味が広がる。胃液だ。僕は急いでそれを吐き出さず、飲み込む。引かない。唾液とともに、胃液があふれて来る。吐いてしまえば、楽になる。でも、それはできない。
汗がこめかみ辺りから伝ってきた。鼻で呼吸が出来ない。苦しい。
店員に視線で助けを求めようとしても、店員はこっちを見ようともしなかった。
まるで、僕と聖さんの世界だけが見放されたかのように、凍りついていた。