複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.32 )
- 日時: 2012/11/22 17:09
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+29+
止まらない。止まらない。僕の額に突きつけられている物体から、目が離せない。
拳銃。
普通の人なら、所持が禁止されている、違法なもの。
圧倒的な存在感と、発している冷気。
そのすべてが、僕の心臓を締めつけて、離してくれない。
僕は、ごくりと唾を飲み込むことも出来ない。どんどんと口内に溜まって行く唾液が、口角から溢れそうだ。
口が震える。
そんな僕を、聖さんはじっと見つめていた。
僕を、ずっと。
まるで、責めているかのような目で。蔑むかのような、目で。
泣きたくて、仕方がない。でも、目が乾いているせいか全く涙は出てこない。
自分自身の存在全てを否定するかのような視線に、死にたくなる。
僕は、なんで生きているんだろうか。こんな目で見られて、こんな記憶の無い状態で。まだのうのうと生きていて。死んだ方が楽だ。死んだ方が良い。
死ねない。
だけど、死ねないよ。
三春。三春が待っていてくれる。僕を待ってくれているだろうから。
三春は、僕を見捨てたりなんか、しない。絶対、しない。
三春は、僕の味方だ。味方だった。
それを僕は捨ててきてしまった。なんてバカなことをしたのだろう。
とにかく、三春のところに戻りたい。
もう、我儘なんて言わない。逃げたりなんかしない。
だから、帰りたい。三春のもとに。暖かい三春のもとに。
ここは寒すぎる。
寒すぎて、痛いくらいだ。
「……本当に、記憶が無いみたいだから」
聖さんの側から、離れたい。聖さんがなんでこんなことをしているのか、分からない。
僕が邪魔なんだ。そうに違いない。
僕が邪魔だから、消そうとしている。僕は、消えた方が良いって。聖さんにとって、記憶がない僕は、ただの邪魔ものなんだって。
そう言っているんだ。
さっきまで、あんなに優しかったのに。味方だと思ったのに。違ったんだ。
僕を、騙したんだ。
僕が不安なのを、良いことに。
僕の寂しさに、僕の空白に、浸った。
それを利用した。
最低。最低。
「最っっ低だよっ!!」
躊躇うことは無い。だってこの人は、僕に向かってこんな危険な物を向けているんだから。
聖さんのお腹に、拳を叩きこむ。
だが、聖さんが半歩身を引く方が、やや早かった。
僕の拳は完璧には聖さんには当たらなかった。
でも、怯ませるのには十分だ。
相手は敵で最低で最悪でも、一応女性。
それ以上は手を出さずに、僕は酒場を飛び出した。
振り返ることなく、走り続けた。