複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.36 )
日時: 2012/12/19 21:51
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+33+


歩き出した。二人っきりで。僕はそっと三春とつないだ手を振った。ゆるく、だんだん大きく。
そうして居ると、なんだか幸せな気分になる事ができた。
なんでだろうか。僕は空っぽのはずなのに、三春と居るとどうしようもなく幸せな気分になれる。
それが何でなのかは分からない。
僕の胸くらいの三春。小さな三春。冷たい手とか。一緒に並んで歩くと出る二人分の足音とか。

一緒に探しに行く。僕の記憶を。

「三春、前にこうして歩いたことある?」

何となく、聞いてみた。本当に、なんとなく。
僕に記憶はない。
僕がどこかに忘れてきた記憶の中に、三春とこうやって歩いた記憶があるはずだ。
三春と一緒に居た記憶がどこかにあるはず。
僕と三春は前、どんな仲だったのだろうか。たまに喧嘩とかしたのかな。そうして、仲直りとかしたんだろうか。
僕が髪を金髪にした理由ってなんだろうか。いろんな疑問がある。
それを解決しに行く。それを手伝ってくれるのは三春だけだ。聖さんは、僕を傷つけようとした。だからもうあの人は嫌いだ。大嫌いだ。もう信じない。

「……あるよ」

三春は僕を見上げて笑う。
そんな三春を守りたいと思う。僕を守ってくれる三春を守ってみたいと思う。僕に残っているのは三春だけだ。三春しかいない。
だから、この小さな手を僕は守っていきたいんだ。


 + + + +


「本当に、いいのよね?」

あたしはもう何度もこのセリフを吐いてきた。
そしてこれが最後になるだろう。あたしが繰り返すその言葉に、彼はもう何度も頷いていた。その瞳がやけに冷めているものだから、逆にあたしは不気味さを感じていた。
コイツは、本当に大丈夫なんだろうか。もし失敗でもしたら、あたしにも火の粉が飛ぶかもしれない。それだけは止めて欲しい。

あたしの手の中の物に、彼は手を伸ばしてくる。
あたしはそれを彼にそっと握らせた。彼はそれを瞳に近づけて、観察をする。
彼のそんな行動は、少しだけ狂気じみていた。彼を見ながら、あたしは小さく汗をぬぐった。
彼を捕えているのは狂気だ。
彼今、何かに夢中になっている。それも、もう二度と戻れないくらいの深みまで。

あたしを見ることなく、彼はそれを持ったままその場を離れていく。
その背中にかける言葉をあたしは懸命に探したがとうとう見つからなかった。
彼に耳は無い。あたしのような人間の言葉が届くほどの耳は持って居ない。

彼は、一体あれを何に使うつもりだろうか。それを詮索するのは良くない。そんなことは分かっている。
まあ、返しに来た時にでも聞いてみよう。

何に使ったの?
何発、使ったの?
とでも。