複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.37 )
日時: 2012/12/24 17:21
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+34+


頑張って来たのに。
そう思ったって全部無駄だ。全部無駄だったんだ。
無駄なんかじゃなかったとか。あなたの思いは伝わっていたよとか。そんな言葉要らない。全部要らない。そんなものは欲しくない。そんな物を望んでなんかない。
欲しい物がある。取り戻したいものがある。

流れる涙は止まらない。
目からは流れていないけど、心が泣いている。あの日からずっと泣いている。それから目を背けたことは無い。涙を掬ったこともない。ただ耐えた。耐えてきた。
だから負けるわけにはいかなかった。
こんなところで。


 + + + +


「ここが、秋が見つかった場所だよ」

三春はそういって、目の前にあった小さな神社を指さした。大きな木が生えている、古びた地味な神社。
僕は石の鳥居を見上げてみる。
でも、思い出せない。ここがどこなのか理解できない。
ピンと来ていない様子の僕の手を引いて、三春が神社の中に入っていく。

僕はあたりをきょろきょろと見ながら土を踏んだ。
石でできた道を進んでいく。小さくて綺麗とは言えない社の裏に進んでいく三春。
今は三春に全部任せる。

ここに僕が居たのか。ここで僕は一体何をしていたんだろうか。

社の裏は砂利が敷かれていた。高い木は植えられていなくて、空がよく見える。

「秋はここに倒れていたんだよ」

ある一点の場所で三春はしゃがみ込んだ。
何の変哲もないただの場所でしかないそこは、三春にとっては大切な場所なんだろう。
三春は僕のことが好きだから、僕が見つかって嬉しかっただろうな。
僕は思い出せないでいる。見覚えは無い。

小さな風が吹いて、三春の短い髪を揺らす。きっと僕の金髪も揺れている。
僕も三春の横にしゃがんだ。
三春の顔を覗き込もうとすると、その前に僕の方を向いてくれた。

「警察が、僕を見つけたの?」

三春は僕を見つめる。そして、首を横に振った。

静かだ。すごく静かだ。三春さんと対峙しているときみたいだ。

僕の背筋が何でか震えた。ぞくりと。
何かを感じ取ったのかもしれない。
何をだ?
違う。何も感じ取ってなんかない。僕は三春を信じる。そう決めたじゃないか。何を不安になっているんだろうか。僕は三春を信じる。そうだろ。

頭に何度か言い聞かせた頃、三春が唇を動かした。

「私が、見つけたの」

「……三春が? 勝手に?」

「そうだよ?」

あたかも当然のように頷く三春。

三春に違和感を感じる。
そんなこと、普通するんだろうか。
行方不明の人間を勝手に家に連れて帰るなんて。警察とか、僕の家族とか、そういうのに連絡もしないで?
おかしいんじゃ無いだろうか。

待てよ。僕は、三春を信じるんじゃなかったのか。三春を疑ってしまったら、僕は何も信じられなくなってしまうだろ。
だって僕自身も僕の味方ではないのだから。