複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.39 )
- 日時: 2012/12/30 11:45
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+36+
三春を信じる。
僕の決意は変わらない。絶対。変えてはいけない。
そうは分かっているものの、三春が分からない。三春は、本当に僕を信じてくれて居るんだろうか。僕は三春を信じている。前までは信じることができなかったけど、今はもう信じるって決めたから。だからもう信じることができる。
でも三春が僕を信じたところで、利点があるんだろうか。三春は僕にまた結婚を申し込んでほしいのか。それなら、僕のことがまだ好きならば僕が記憶を取り戻すことは三春の喜びなんだろうけど。
僕は頭を抱えたくなった。
僕が居たという場所を愛おしそうに見つめる三春。なんでそんな目でこの場所を見るんだろうか。
僕は三春の顔をつかんで無理やり僕の方を向かせた。
びっくりしたような顔を作るけど、三春はすぐに柔らかな笑顔を向けてくれる。
ずっと思って居たけれど、三春はすぐに僕を見て笑ってくれる。
僕を安心させるためだろうか。それとももっと重要なことがあるんじゃ無いだろうか。
それは、どんなことなんだろう。三春今、何を考えているんだろう。
僕には到底理解できない寂しさを三春は抱えているんだと思う。そう思うと、早く記憶を取り戻したいと思う。
三春は今一人ぼっちだから。そして僕も一人ぼっちだ。
この世界を僕は知らない。
この世界は僕を知らない。
三春の顔をじっと見る。
恥ずかしいけど、確認したいことがあったから。これだけは聞いておきたかった。
「三春は、僕のこと好きだよね?」
押し付けるような言葉になってしまった事を反省する。
三春はまたびっくりしたみたいだ。三春をつかんでいた手を放す。少し乱れてしまった髪に指を通す。
三春の短い髪。柔らかい髪。この髪の間食だって、僕は覚えていないのだ。
僕は何をやっているんだろうか。僕だけの世界が止まっている。僕は本当はここに居ないはずの人間だ。
記憶を失った、坂本秋。
そんな坂本秋をだれも必要としていない。
三春が今度は僕の顔を両手で包んできた。
そしてきっと、三春は肯定の言葉を言ってくれようとしたんだと思う。そのはずだ。
だってこんな柔らかい表情を僕に見せてくれる三春が、僕のことを嫌いなはずがないのだから。
それなのに、三春の言葉はかき消される。この場所から見える道路から飛び出してきた声によって。
「何やってるの!?」
聞いたことのある声だった。僕は三春の手を振り払うようにそっちを向いた。
すると、神社を囲うフェンスを飛び越えてくる、息を荒らげた聖さんの姿を見つけた。
僕は思わず三春の手をつかんで走り出した。聖さんの姿を振り返らずに、三春を連れてその場を逃げ出した。