複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.4 )
日時: 2012/09/18 15:38
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
参照: https://



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フワフワの花柄のバスタオルを押し付けて来る三春。
僕は、汚い。自分でも分かるくらい汚い。なんでかは分からない。三春は知っているかもしれない。
なんで僕はこんなに汚れているの。なんで僕は。

「何か困ったら言って、助けるから」

助けて欲しいよ。僕を助けて欲しい。怖いんだ。自分が分からない。ついでに、あんたのこともよく分からない。なんで僕を助けてくれるの。不安だらけなの。僕をこの不安から助けて欲しい。
三春は笑っている。汚い僕に向かって笑ってくれている。

「あの、三春、さん」

なんだか申し訳なくて、言われた通りに呼べない。
そんないきなり呼び捨てなんて。三春にとってはいきなりじゃないんだろうけど、僕には過去も経験も『これまで』も無いから。
それを理解して欲しかったのに、三春はこれまでの笑顔を消した。いや、笑ってはいる。今まで通り笑っている。
それでもさっきまでの笑顔とはどこか違った。
僕の体に少し力が入った。

「さん、なんてつけないで。お願いよ、秋」

三春はそう言って、僕の手の中にあるバスタオルにそっと手をかけた。
僕が言うのを待っているようだ。
僕はいつの間にか水分の無くなった喉に空気を送る。
三春は僕のことを待っている。
抵抗はどうしても消えないけど、三春がそれを望んでいるから。今の僕はまだ、三春に従うことしか出来ないから。三春しか、僕の味方は居ない。何もかもが無い僕を、笑顔で受け止めてくれているのはまだ、三春だけ。
僕が記憶を取り戻すために必要なのは、今までの僕を知っている三春だ。

僕は、どう思っているんだ。記憶を取り戻したいのかな。僕は、元に戻りたいのかな。

「三春」

その言葉に連動して、三春の笑顔が元に戻る。
バスタオルから手を放してくれる。

「何?」

「僕がお風呂から上がったら、いっぱい質問しても良いかな」

今までの僕のこと。僕の知らない僕のこと。これからの僕のこと。それと、三春のこと。
たくさん知りたいことがある。僕には足りないものが多すぎる。

「あたりまえじゃない。教えてあげるよ、たくさん。教えて良いことなら」

教えて良いことって、何。教えちゃいけないこともあるの。なんで。これは僕のことなのに。もとは僕の事なのに、三春の判断で僕が取り戻せ無いこともあるの。
そう言いたかった。抗議したかった。
それなのに、口が動かない。怖い。三春に逆らうのが恐い。

僕は、知らない。三春に従う以外の選択肢を、知らない。まだ。まだ、かな。これからいろいろ僕には選択肢が増えるかな。もっと自由になれるかな。

三春は僕を立ち上がらせた。ずっと横たわっていたのか、うまく足に力が入らない。それを三春は支えてくれる。

大丈夫だ。僕はまだ三春に従っていれば良い。
三春は優しいから、大丈夫。