複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.42 )
- 日時: 2013/01/03 14:02
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+39+
「浦河聖?」
三春は眉間に皺をよせて難しそうな顔をした。唇に指を添えて考える素振りを見せる。
その行動が気になって、僕は三春の顔を覗き込んだ。三春は相変わらず難しそうな顔をしたまま視線を彷徨わせていた。
三春のことが心配になって、声を掛けようとした時三春が急に顔を上げた。
「……三春?」
「あ、ごめんね」
三春はそういうとふんわりといつも通り笑ってくれた。まるで何事も無かったかのように。
そして、服の前を摘まんでパタパタと仰ぐ。無理矢理走らせてしまったことを後悔しながら、僕たちの部屋に向かうことにした。
あそこが一番安全で、一番安心できるから。僕たちの居場所だ。
三春にはたくさん居場所があるんだろうけれど、僕には何もない。僕には三春しかない。
だから三春の足を引っ張っているって気づいて居ても、あの部屋に帰りたかった。
結局僕たちの買い物は満足にはできなかった。でもまた二人でゆっくり行けばいい。
新しい機会が増えてうれしい。
こうやってのんびりしていると僕が記憶喪失だってことは忘れてしまいそうになる。そんな安心を与えてくれているのは三春だ。
三春を信じることにしてから僕の心は軽い。信じちゃえば悩む必要なんてなかった。すべてを受け入れるのが一番楽なんだ。
こうやってのんびりしていたい。このままの生活を続けても三春が困るだけだってわかっていても、この生活が楽なんだ。
僕は僕を取り戻さないといけない。この決意が揺らいでしまいそうになるほど、この環境が温かい。心臓の奥まで三春の優しさがしみ込んでくるようだ。
そのまま三春にすべてを任せたらもっと楽になるんだろうな。
違う。
僕は楽なのを望んでいるんじゃ無い。僕と、三春の幸せを探すのが僕の役目なんだ。
そのために、自分から動いて僕の記憶を探さないと。
僕はどこに記憶を忘れてきたんだろうか。
「三春は聖さんのこと知っているの?」
三春は首を振った。
三春は僕を見上げて、いたずらっぽく笑う。
そんな表情を見せてくれる三春はやっぱり優しいと思う。
三春が居なかったら僕はどうなっていたんだろう。きっと僕も何もかもを信じられなくなってしまっていただろう。
僕を助けてくれている三春。
離れたくないな。
「もしかして、秋の浮気相手だったのかもね?」
「そんなわけない! 僕は三春のこと大好きだったよ! 僕は三春だけ見てた! 他の人なんか見てない!」
僕は三春の手が折れてしまうんじゃ無いかと思う暗い三春の手を握りしめた。僕が叫んだのを聞いて周りの人が僕たちを不思議そうに見ていた。
でも一番驚いていたのは三春だった。
今度は切なそうに笑うものだからまるで僕のことを信じていていないみたいだ。
「そう。ありがとう。記憶がないのにそうやって断言してくれるんだね」
「絶対、絶対いつか、ちゃんと記憶を取り戻した状態で言うから! 絶対!」
「……うん。よろしくね」