複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.45 )
日時: 2013/01/06 12:09
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)



+42+


お湯が溜まったみたいなので、三春を立つように促してお風呂場に向かわせた。
そして着替えを用意する。タンスの中をあさるのにも抵抗があるけれど、今は構ってはいられなかった。風邪をひいては大変なので、ちゃんとお風呂に入れさせてあげたかった。
着替えを渡して脱衣所の扉を締めようとした時、僕のパジャマを着て布団にくるまったままの三春が僕の服を摘まんだ。
僕はそれに引き止められる。三春は虚ろな瞳で床を見ている。
冴えていない表情に心配になる。
三春を一人にして大丈夫だろうか。何があったのか聞くべきだろうか。いろんなことを考えてしまうけれど、今は落ち着かせたい。

三春の視線と交わるために腰をかがめる。
顔色を覗くと、唇の色が優れていない。速く体を温めたほうがいいだろう。
いったいどれだけ長い時間あの冷たいシャワーを浴びていたんだろうか。なんで僕に助けを求めなかったんだろうか。
僕が気付かなかったなら、一体三春はどうなっていたんだろうか。

「……三春、どうかした……?」

出来るだけ優しい声を出す。三春を小さな子供だと思って。
部屋が太陽の光で明るくなってくる。

三春は顔をやっとあげてくれた。
僕を見つめる三春の目は、怖いくらいに黒い。
吸い込まれそうなんかじゃない。そんな綺麗な黒ではない。
いろんな感情があってその感情を押し固めたものを刺殺した時に出てくる、どす黒い血。そんな色。
三春の考えている事が分からない。

三春が心配で手を伸ばそうとした時、すっかり青紫色に変色した唇がう蠢いた。
小さな声を拾おうと、息を潜める。

「秋、一緒に入ろうよ」

「……は……?」

予想外の言葉に思わず体が硬直する。そしてすぐに顔に熱が集まった。だけど三春はいたって真剣だ。
今だって僕をじっと見ている。
三春は真剣。真剣に、こんなことを言っているんだ。それだけ三春は僕のことを信頼しているんだ。
そう思うともっと体が火照ってくるのを感じる。

「だ、駄目。駄目だよ」

僕は三春の手を握った。
冷たかった。何もつかんでいないかのように冷たかった。
それでもしっかりと力を入れる。
三春はここにいる。僕の側にちゃんといる。

「なんで? どうしてなの? 私の側に居てよ秋。私の側に居て。目の届く場所に居て。私を一人にしないでっ」

最後の方はまるですがるような言葉だった。
僕は茫然としてしまった。
三春が泣いているのだ。もう何度も見てきた。
涙の意味が分からなかったけれど。
三春はきっと一人が怖かったんだ。

僕が居ないと、三春も一人なんだ。
僕たちは一緒だった。
二人ぼっちだった。