複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.47 )
日時: 2013/01/13 10:44
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)


+44+


三春の願いは叶えてあげたいけれど、僕と一緒にお風呂に入るのは駄目だ。絶対駄目だ。
いくら恋人で婚約者でも記憶のない僕と一緒にお風呂に入るのは、僕にとっては僕以外の人間とお風呂に入るのと同じ行為なんだ。
僕は僕自身に嫉妬をする羽目になる。

僕はなんとか三春を説得して取り敢えず朝ごはんの準備をすることにした。
三春はお腹を空かせているだろう。あんなに吐き出したんだから。
僕に料理ができるかどうかは分からないけれど、お粥くらいならできる。きっと体が冷えているだろうから、体が温まるものが良いよな。良いに違いない。
僕はお粥の準備を始める。
三春に元気になってほしい。三春には何時だって笑っていてほしい。僕に笑いかけてくれる人間を、僕はまだ三春しか知らない。
三春の事を大切にしたいと思う。記憶を失う前の僕も、三春のことを一番に考えていたと思う。
そうに違いない。そうであってほしい。
こんなさびしがり屋で、壊れやす三春を一人になんかしていないで欲しい。
僕ならそのくらいは分かっていたと思う。
僕なら、きっと。


 + + + +


早く帰りたかった。
こんな生活を続けていたら頭がおかしくなる。いや、もうなりかけているのかもしれない。
縛られた手首はもう何も感じていない。
僕は静かに涙を流した。床に零れ落ちる涙は、次々と弾けていく。
闇に慣れすぎた瞳は、一体どんな絶望が映っているのだろうか。いったい僕はどんな顔をしているんだろうか。汚れきった体で汚れきった顔で情けない表情を作っているのだろうか。
そんなんでは荻野目のもとへは帰れない。
荻野目はさびしがり屋だからすぐに帰ってあげたい。
僕が居なければ、荻野目は一人ぼっちなんだから。
僕が早く帰ってあげないと、荻野目は壊れてしまうだろうから。
でも僕にはどうすることもできない。
なんで僕がこんな状況に置かれているのか、想像もできないのだから。

喉が痛いくらいに乾いている。
空っぽの胃は空腹を訴えるのをやめた。
後は。
後は、どこを失えばいいんだ。
頭か。この何かを考える頭の機能を殺せば、ここから出られるのだろうか。
暖かい荻野目のもとに帰ることができるんだろうか。
希望がない。僕には光がない。
頭がおかしくなる。
このままじゃあ、光と闇の違いさえも分からなくなりそうだ。

目の前の扉が開いて、ようやく暗い部屋に光が差し込む。
そしてやっと僕は顔を上げた。
明るすぎる光に目が眩む。

僕に近寄ってくる足音。
僕の前にかがみこむときの音。
すべてすべて。
すべてが怖い。
僕に近寄らないで。僕はここから出たいんだ。
荻野目のところに帰りたいんだ。

僕は耳を塞ぎたかった。
じゃないと、耳の中から脳みそが出てきそうだった。