複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.52 )
日時: 2013/01/13 20:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+49+


僕は、坂本秋だ。
最初はそれに違和感を感じていたはずだ。三春が言ったからといって、僕が坂本秋だとは限らない。そう思っていたはずなのに。
何時から僕は、僕が坂本秋だと本当に信じ切るようになったんだ?
僕は一体、何を間違えているんだ?
僕は坂本秋だからって。
坂本秋を愛している三春。じゃあ、僕が坂本秋じゃないのなら、本当は三春は僕なんか愛していないんじゃないだろうか。
三春は、僕を坂本秋として利用しているだけなんじゃないだろうか。
ああ、駄目だって決めた。三春を信じるって。そう決めたじゃないか。なんで僕はまた三春のことを疑っているんだよ。三春は僕を信じていてくれた。だから僕も何も疑うことなく三春を信じてきた。
僕は一体。気が付かないうちに頭を爪でがりがりと掻いていることに気づいた。
僕はここで見つかった?
それすらも嘘かもしれない。
三春は僕に嘘をついているのか?
じゃあ、嘘をついているのなら、どこからどこまでが嘘なんだ?
僕に残っている本当って、なんだろうか。

「何もしないと約束する。だから、あたしについてきてくれないか」

そんな僕の手を取った聖さんは僕の手をゆっくりと引いて歩き出す。
僕はそれについて行った。僕の手を包んでいる聖さんん手が温かくて、大きくて、思わず眠ってしまいそうなくらい優しくて。
僕は涙が出そうだった。
また振出しに戻っている。僕は何も進んでなんかない。僕はどうしたら、僕を取り戻すことができるんだろう。
聖さんは抵抗をしない僕を心配そうに覗ってきてくれる。
聖さんは怖かった。でも今の聖さんになら付いていきたいと思う。
いや、僕を導いてくれるのならもう誰だっていい。僕をこの不安から抜けださせてくれるのならもう誰だって良い。
僕は一体誰なんですか。僕はどうしたらいいんですか。僕は今まで何をしてきたんですか。僕の記憶はなんでないんですか。
誰か答えてくれ。
僕にそれを教えてくれる人が本当の僕の味方だ。

僕は前を歩く聖さんの揺れる黒髪を眺めた。
聖さんは何もしないって言ってくれた。それが僕の心を癒してくれている。
三春の事は信じたい。でも僕の本当のことを教えないで僕に嘘をついていたのなら、三春は最低だ。
本当に、僕をだましているんだろうか。三春は本当に僕を利用しているだけなんだろうか。
もうわからない。何もかもが分からない。
僕は何もわかっちゃいない。
僕はどうしたらいいんだ。

「あの……どこに……」

「……坂本秋の家だ」