複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.53 )
日時: 2013/01/14 12:40
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+50+


「僕の家……」

いや。違う。
僕の家じゃない。
坂本秋の家だ。
僕はどうなんだ。なんなんだ。
坂本秋の家に行けば、僕のことがわかるのだろうか。まさか。僕が倒れていたところにきても記憶は戻らなかった。それなのに坂本秋の家に行ってもわかることは何もないかもしれない。
そういえば、なんで三春は坂本秋の家に連れて行ってくれなかったのだろうか。
知らなかった、とか。まさか。三春は坂本秋と婚約しているって言っていた。
それも嘘だったら?一体どこからどこまでが嘘なんだよ。

「あの、聖さん」

聖さんは僕の手を引いて歩き続ける。
きびきびとした様子は最初会った時と全く変わっていない。その変わりのない様子になぜか安心する事ができた。
僕の周りでは変わって居ないものはたくさんある。
僕が目覚めた時から築いた記憶の中から変わっていないものもある。僕の周りで時間がたっても変わっていないものがある。
それに安心することができる。

「どうかした?」

聖さんは僕を安心させようとしてくれているのだろうか。
それだった嬉しいけど。聖さんは僕の味方なのか、味方じゃないのか。

「三春は僕に嘘をついているのかな」

僕は自分の足元に視線を落とす。
自信がない。今まで三春を信じていた自分は間違いだったのか。自分は間違っているのか。
自分はいったい誰なんだろう。

「……分からない。あの女が企んでいることは分からない。でも」

聖さんは続ける。
僕は聖さんの言葉が自分の体がしみ込んでいく感じがした。今の自分には、何でも安心できる要素になるみたいだった。

「あたしにとって都合の悪いことをしようとすることは確かだよ」

聖さんにとって悪いことってなんだ。僕には知らないことが多すぎる。でも僕は質問をするために口を開きたくなかった。
僕はもう何も言いたくない。

何を言ったって、僕は見つからない。