複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.55 )
- 日時: 2013/01/18 17:46
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
+52+
思考回路がさび付いたように重い。だが僕はそれを無理やりに動かした。
考えろ。聖さんが僕に何と言ったのか、しっかりと理解をしろ。
僕が、記憶を失ったから?だから聖さんは僕を殺そうとしているのか。
僕は眉間のしわを緩やかに伸ばす。怖い顔をしたって仕方がない。
聖さんは僕を殺そうとしている。それは間違い無い。欲望丸出しの人間なら恐くないじゃ無いか。
怖いのは、怖い人間は、自分の欲望を殺して善人面している人じゃないか。
僕の穏やかな表情に聖さんは唇を噛んだ。
なんでこんなに苦しそうにするのだろうか。僕にはわからない。
でもわからないから、僕は知りたいと思うんだ。だからここで黙ってはいけない。
絶対に黙ってはいけない。
「僕のことを、聖さんは知っているんだよね?」
「……少しだけならな。そして君が何をしたのかも、あたしは知っている。というか、大体見当はつくさ」
聖さんはいつかと同じような返答をしてくれた。
僕は肺の中の熱をゆっくりと心臓に戻していく。心臓は落ち着いている。頭は冷え切っている。
大丈夫。聖さんは、とりあえず今は僕を殺さないだろう。
明らかに劣勢の僕に対して、聖さんは苦しそうな顔をして変えない。
なんでだろうか。
僕は聖さんを苦しめているようだ。
なんでだろうか。
僕には疑問ばかりだけど。でも、解決するんだって。三春のために頑張るんだって。
僕は死ぬわけにはいかない。
「僕が記憶を失った理由、聖さんはどう考えているの?」
「それを君に教えることはできない。あたしの身にかかわってくるんだよ、君が記憶を取り戻すということは」
「……教えてくれないんだね」
僕は目を細めた。
どうやったって、聖さんは僕に自分の考えを話してくれない。
聖さんは僕に記憶を取り戻されると困るらしい。
三春は僕に記憶を早く取り戻して欲しいのに。
「——————あ?」
いつ。いつ。いつだよ。
いつ、三春が僕に早く記憶を取り戻して欲しいなんて言ったんだ。
いつだよ。
全部全部、僕が勝手に想像しただけじゃ無いのか?
勝手に想像しただけなんじゃ無いのか?
ねぇ、三春。
三春は、どう思っているの?僕に早く記憶を取り戻して欲しい?
それとも聖さんのように、僕に記憶が戻ったら困ることでもある?
ねぇ、どっち?
僕の上で聖さんが目を見開いた。僕の目の焦点がずれてきたからだろう。
僕はその隙をついて、足で聖さんの腰を絞めつけた。
聖さんが抵抗しても気にしないで、そのまま横に振り転がる。
ほこりだらけの和室を二人で転がって、襖にぶちあたった。
ほこりが舞っている部屋の中で、聖さんが僕の胸を押してくる。
僕は今度は聖さんに馬乗りになってやった。
僕の前で聖さんは悔しそうにしている。
ほこりが差し込んだ光を反射して綺麗に光っていた。
まるで、宝石のように。