複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.56 )
日時: 2013/01/19 16:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
参照: http://実は終盤(?)



+53+


「っ、やめ、ろ!!」

僕の下でじたばたしている聖さんの手首に爪をくいこませる。内出血をおこさせるつもりでぐいぐいと。
聖さんは痛みに耐えかねて銃を奪い取った。その行動に聖さんは目を丸くして、そして苦しそうにする。
僕は聖さんが背中を蹴り上げてくる。とがった靴の先が突き刺さっていたいが、別に恐れる程度のことじゃない。
僕は銃を聖さんの額に銃口を押し付けた。ごりっとした音がして僕の指が引き金に添えられる。

僕の息が荒い。耳の奥で何かが燻っている。
僕の頭の中で何かが浮かんで来る。
いやだ。いやだ。浮かんで来ないでくれ。
口が開きっぱなしになっている。唾液が聖さんの首筋に落ちた。
聖さんの顔が上手く見えない。
指が震える。歯ががちがち音を奏でている。
何も消えない。何も聞こえない。耳が機能を停止している。
僕の首筋に聖さんの両手が添えられる。容赦なく締め付けられる。
僕は聖さんに顔を近づけた。
よく見えない。よく聞こえない。よく考えられない。
さっき爪で傷つけた手首が青紫色に変色している。
息が出来ない。
僕は銃を振りかざしグリップで聖さんの頭を殴りつけた。
聖さんの両手の力が少しだけ抜けた。聖さんの右手を左手でつかむ。
もう一度殴りつける。
黒いグリップに、赤黒い血が付着していく。
よく聞こえない。よく見えない。
だけど何度も殴った。
聖さんは僕を殺すつもりだ。

なら、しょうがないじゃないか。

「はーっ、はーっ、はーっ」

聖さんから離れた。
聖さんの黒髪が乱れて顔が見えない。
汗がひどい。僕は手に握っている銃を目の前まで持ってきた。グリップから血がしたたり落ちる。
僕はそれを離すことができなかった。グリップが手に張り付いてはずれない。手にフィットして離れてくれない。まるで細胞が銃に溶け込んだようだ。
汗が酷い。聖さんの赤い口紅の唇が小さく動く。僕は飛びのいた。
聖さんの頭から出てくる赤い物が、畳にしみ込んでいくのが見える。よどんだような、蒸し暑い異臭が部屋の中で渦巻いている。もう今は寒いくらいなのに。
胃の中から込上げてくるものを遠慮なく畳の上にぶちまける。食べたものが少なかったのか、ほとんど透明な物が畳に飛び散った。

「……すぞ……」

聖さんの唇の中から空気と唾液と、声のようなものが出てきた。
聖さんのヒールにも僕の吐瀉物がかかってしまった。
聖さんの目は見えないのに、僕の方をじっと見ている気がする。
袖で口元をぬぐい、壁沿いに滑るように移動してドアノブを握る。靴を履いたまま部屋に入ってよかった。

「っ……あの……女は……、……君を……殺すぞ」