複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.58 )
- 日時: 2013/01/21 16:44
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
+55+
三春の細い足に縋りつくようにしながら、僕は三春を見上げた。
三春は僕を冷たい顔で見下ろした居たけれど、すぐにしゃがんで僕の顔を撫でてくれた。そっと撫でてくれる三春の手は柔らかくて暖かい。
僕は三春の瞳をちゃんと見つめ続ける。三春の目は相変わらず何を考えているのか全く分からないものだった。
それでもこの瞳で見つめられると凄く安心する。僕を包んでくれる瞳。僕をバカにしないで見守ってくれる瞳。
「ぼっ僕! 聖さんに! 殺されそうになって!!」
ものすごい勢いで今までにあったことを話す。
三春にどれだけ伝わったかどうかは分からないけれど。それでも話とかないと落ち着かなかった。
僕がどれだけ大変だったのかどうかをちゃんと話しておきたかった。
三春と離れたことで、どれだけ僕が不安だったのか。
どれだけ悩んだのか。
でもそれが、三春への愛からの行動であることを。
三春を信じたいんだ。
僕は脳内で繰り返す。
三春を見上げる。ちゃんと聞いておこう。
「ねぇ、三春……」
三春は首を傾げた。
三春の短い髪。大きな目。薄い唇。
ねぇ、好きだよ。
今まで支えてくれた三春が大好きだ。
だって三春は僕の婚約者なんだから。
ねぇ、そうだよね。
聖さんはあんなことは言ったけれど。
そんなことない。
三春は。
三春は。
「三春は……僕を殺さないよね?」
思わず三春に抱き着いてしまった。
殺さないよね。
だって、三春は僕のことを好きだって言ったのだから。
冷たい音が響いた。
何か重たい物が、フローリングの上に落ちる音。
僕はそれが服の中から銃が滑り落ちてきた音だということを容易に想像できた。
三春の体が硬直した。
その直後、三春が僕の体を突き飛ばした。僕の背中が玄関のドアにぶつかる。僕は冷たい玄関の床に座ってしまった。
三春は僕が落した聖さんの銃を拾い上げていた。
震えている両手。
僕の肺の中から空気が一気に出てきた。そして吐きそうになる。
なんで答えてくれないの。
なんで、殺さないって言ってくれないの。
なんで好きだって言ってくれないの。
「……三春……? ね、ねぇ、三春。三春は、僕の、味方、でしょ……?」
僕の言葉から自信が抜けた。
自信たっぷりに聞いた。三春は僕の味方だから。
絶対に聖さんのように殺そうとなんかしないって。
そういってくれるのは当然だと思っていたのに。
「……これ、どこで」
三春が顔を上げる。
僕に見えるように銃を差し出す。グリップに聖さんの血液が付いたもの。
僕は震える唇を必死に動かした。
僕は、坂本秋。
ねぇ、名前を読んで。
「……聖さん、の、だよ……?」