複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.59 )
- 日時: 2013/01/23 17:54
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
- 参照: http://ねこぼーろさんの曲を聴きながら読んでほしいです(゜ω゜*)
+56+
自分が間違っているなんて思ったことは無かった。
自分の行動はそのまま、自分の欲望のままに。
自分の考えた事はそのまま、言葉に。
そうすれば自分の中で腐っていく感情は生まれない。それが蓄積して自分が腐ってしまう事もない。
だから自分の欲望通りにしてきた。これからだってそのままだってそう思っていたというのに。
思いながら震える手で襖を滑らせる。
暗い部屋の中に光が一筋生まれ、そしてなかに居る人間の表情を色濃く浮かび上がらせる。
愛しているよ。
そんなことを呟いて見せる唇からは鉄の味がするというのに、自分はこれを間違ってるとは思っていないのだ。
なぁ。
+ + + +
愛してるよ。
いつか君が呟いた言葉を自分の唇で言ってみた。
すごく汚い言葉だと思った。君が言ってくれた時はあれだけ綺麗な言葉だと思ったっていうのに。
自分で言ったらさ、すごい汚いって思ったんだ。
すごく汚くて聞いて居られないよ。
聴いた人の、言った人の心臓を締め付ける言葉だ。
すぐに目の前に海ができる。
落ちた雫からさえも、愛しているの声が聞こえるような気がする。自分の体を形作っている物が、汚らしい愛しているっていう言葉のような気がする。
指先が震えるよ。
帰ってきてほしい。
もう一度、そばで笑って欲しい。
愛してるよ。
ねぇ。
+ + + +
三春は目を丸くした。その銃を見つめて少しも動かなかった。
そりゃあ、帰ってきた恋人が銃を持っていたなら驚くのは当然だけど。でも、僕の質問に答えてくれたっていいじゃないか。
僕は怒りで震えそうになりながらも三春に近づこうとした。
その前に、三春がいきなり顔を上げた。
僕は動きを止めてしまう。
三春の顔がすごく青白い。
「なんで思い出せないの?」
三春から出た言葉が体を硬直させた。怖い。三春が僕を責めている。三春が僕に怒っている。
今まで僕の記憶のことを突っ込んでいることは無かったのに。
「……え……」
「どうして思い出せないの? ここまで来て、なんで」
耳を塞ぎたいという衝動を感じるのは何度目になるだろうか。この行動を求める時の僕は必ず何かから逃げようとして居るのだと思う。
僕は、自分の記憶から逃げたいのだろうか。それとも僕を求める三春から逃げたいのだろうか。
なんなんだ。僕は一体いつまで悩んでいればいいんだよ。
僕は一体誰なんだよ。
三春。三春。
教えてくれよ。
「三春は……僕に記憶を取り戻して欲しい……?」
何も見えないんだよ。
光を差してくれよ。
さぁ。