複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.62 )
- 日時: 2013/01/26 12:15
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
+59+
三春が何で僕を殴ったのかは全く分からない。
不安だから?僕は三春を不安にさせてばかりだと思う。
だからだろうか。
僕は三春を助けたかった。三春を救うことで、僕自身も救われるような気がしたから。
僕は目を開けた。
冷たい足元の埃の間食に気が付き、そしてすぐに自分の手首が縛られていることに気付く。手だけを縛られていて足と首しか動かすことが出来ない。
目を開いているはずなのに、周りがよく見えない。暗闇だ。
僕は寒さに澪振るわせて、鼻腔をつつく強烈な異臭に辺りを見渡す。
頭を揺さぶられるかのような衝撃はまだ頭から逃げ出せていない。
変なにおい。生ぬるい血の匂い。淀んだ空気。状況をつかもうとする。この臭いはなんだろう。
もしかしたら、僕の匂いかもしれない。僕が三春に殴られたときに出血したから、その時の匂いかもしれない。
「三春?」
取り敢えず三春を呼んでみた。僕の味方である三春は今どこに居るのだろうか。
僕はやけに落ち着いている僕自身に驚いていた。縛られて、三春に殴られたのに、全然混乱していない。
三春を信じているから。
三春が僕を殴ったのには何か理由があるんだ。そんなのは後で聞いて見ればいい。だからいまは三春に会いたい。こうして僕がここに縛られて居るのにも、何か理由があるんだ。
三春の名前をもう一度呼ぼうとした時、目の前に一筋の光が差し込んだ。
膝を立てている僕の足元を照らしてくれるその光は、僕の前にあった襖が開いたことによるものだった。
僕は顔を上げる。すると、右手に聖さんの拳銃を持った三春が立って居た。
ふんわりとしたワンピースを着た、女の子らしい三春。記憶喪失である僕を見守ってくれていた三春。僕を急かさないでいてくれた三春。
三春に縋りたかった。でもできるわけなかった。
僕は落ち着いた表情をつくる。
「……おはよう」
三春は笑うこともしない。
そのまま僕に近づいてくる。襖は閉めなかった。三春は僕を見下ろして、そして僕の隣に視線を滑らせる。
そこに倒れている人が居た。その姿には見覚えがある。向こうの部屋から引きずっていた後があった。
頭からの出血。乱れた黒髪。女の人なのに大きな体。
僕は心臓をわしづかみにされたかのような衝撃を受けた。
聖さんだ。
ということはつまり、ここは僕の、坂本秋の部屋だ。
なんで僕はここに居るんだ。三春はなんで僕をここに連れてきたんだ。なんで聖さんは引きずられてきているんだ。
「聖さんまでなんでここに……」
「こいつはあなたを殺そうとしたから」