複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.63 )
日時: 2013/01/27 12:48
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+60+


自分の心臓が落ち着き始めている事に気が付いた。三春がそう言ってくれたことに安心していたんだ。
僕を守ろうとしてくれていたんじゃ無いか。でも僕を縛る理由はまだ分からない。
三春は銃をしっかり握ったままだ。いやな予感はしている。
三春は絶対に僕を守ってくれるんだ。絶対だ。僕を殺そうとした聖さんに対して怒っている。
それはつまりだ。やっぱり三春は僕の味方だった。

隣で布が擦れる音がした。
三春も僕も倒れている聖さんに目線を移す。
聖さんの呼吸はひどい。聖さんの胸が激しく上下しているのが手に取るように分かった。

「……だってっ、貴女が……貴女が、コイツを、殺すのを止めないと……」

「自分のしたことが公になるから?」

聖さんはまだそんなことを言って居る。
三春は肯定も否定もしなかった。否定してほしい。そんなこと私は企んでなんかないって、そういって欲しい。

三春が聖さんに銃口を向けた。躊躇う様子もない。三春のやけに落ち着いた姿に不気味さを覚えるが、どうでもよかった。
だって三春は僕を助けてくれるんだから。三春は僕の味方なんだから。三春と一緒なら僕は傷つくこともないんじゃないだろうか。
三春と一緒ならいつかきっと記憶を取り戻すことができる。
そんな確信と安心が僕を支配している。
本当はだめなのかもしれない。自分で記憶を取り戻しに行かないとだめなのかもしれない。
でも、僕は安心な道を進みたい。
怖くなった。外に出るのが怖い。三春以外の人と喋るのがもう怖いんだ。
確実な僕の味方。そんな三春とずっと一緒に居たい。

「コイツがやったことを教えてあげようか?」

三春は笑っていた。
僕の好きな三春。早く記憶を取り戻してあげる。それで、三春を救ってあげたい。
僕は不安だ。三春も不安だから。三春は一人だから。
僕は三春に縋ることができるけど。

僕は三春を見上げていた。

なんで僕は記憶をなくしたの。
聖さんはなんで僕を狙うの。

疑問が解決できないまま僕はここで縛られている。

「教えてあげるよ。ねぇ——————」

三春が教えてくれるの。

僕は何かを言おうとした。

僕は三春を見ていた。

三春が引き金を引いた。

乾いた音がした。

長い音だった。

何かが破裂する音だった。

『パァァァ———————ン』

耳を貫いた。

足先までの神経にまで音が響いた。

聖さんは一度震えた。

それ以上何の行動もしなくなってしまった。

動いていた胸も動かなくなった。

聖さんの頭が変なものになった。

僕は。

僕は。

「——————あ?」

頭の中に情報があふれた。

夏の日。

荻野目三春。

坂本秋。

「思い出した?」

関本友作。

そして。