複雑・ファジー小説

Re: ついそう ( No.65 )
日時: 2013/01/28 18:07
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



+62+


夏の日に、関本友作は街を歩く少女に恋をした。
一目ぼれだった。
彼女を追い求めた。毎日彼女を見つめ続けた。彼女以外を考えることはできなかった。
でも関本友作は知っていた。彼女に恋人がいることを知っていた。
だから迷った。
自分に道がないことを理解して居た。でも諦める事なんかできるはずも無かった。自分の未来を捨てきる事なんかできるはずもなかった。
自分に未来はあると信じた。
だから自分で未来をつかみに行った。

恋人を監禁した。
殺すつもりで監禁をした。暗い自分の部屋で監禁をした。和室の柱に彼を縛りつけた。
彼は怯えた。関本友作を彼が知っているはずも無かった。彼女も関本友作のことを知るはずもなかった。
関本友作は怯える彼を毎日いたぶった。恐怖を与えた。
優越を感じることができた。自分が彼女の中で一番だと思うことができた。自分の未来は確定したと思った。

そして完成させた。
武器を不法に売っている連中のことを耳に入れた。浦河聖。彼女から一丁の拳銃を購入した。
そして撃った。
躊躇う事もなく自分のしていることが正しいと信じ続けた。彼女と自分の未来の為だった。
彼は死んだ。呆気なく死んだ。彼女の隣を呆気なくあけ渡した。

坂本秋は関本友作に殺された。

優越感。幸福。
その感情は人を殺めて手に入れたものだった。

破壊された頭蓋骨と痙攣する筋肉と、最後まで自分をゴミのような視線で見続けた眼球。

銃声。

それが自分を離してくれなかった。
解放してくれなかった。自分の中で響き続けている。
坂本秋を打ち殺した時の感覚。引き金の軽さ。振動で腕が震えたこと。空薬莢の落ちる甲高い音。
それが鼓膜からあふれてくる。
涙が止まらなかった。
何時でも誰かが自分を責めている気がした。
何時でも誰かが自分を狙っているような気がした。
自分は犯罪者だという現実しか見ることができなかった。

恋人を殺してしまった。
それをひどく後悔した。
彼女に謝りに行こうと思った。そして自殺をしようと思った。それなら許してくれると思った。

ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
でも貴女が好きだったんです。
貴女が好きすぎて我慢できなかったんです。
見てほしかったんです。知ってほしかったんです。
後悔をしています。銃声が響いているんです。忘れさせてくれないんです。あの感覚が解放してくれないんです。
だから許してください。
消えるから。だから、許してください。

許してくれなかった。

彼女はマンションのベランダから飛び降りていた。
死んでいた。

誰に謝ればいいのかわからなくなってしまった。

ごめんなさい。
誰に謝れば許してくれますか。
どうすればこの音から解放されますか。

なんで死んだんですか。
なんで許してくれないんですか。

逃げ込んだ。現実から逃げようとした。
そうして逃げ込んだ先の空が綺麗だった。
あの日のように暑かった。
いつの間にか夏になっていた。
坂本秋を殺したのが何時なのかもう思い出せなくなって居た。
空が綺麗だった。
本当に綺麗だった。

そんな空に、一輪花が咲いた。

大きな花だった。

大きな音を出して散った。

まるで、まるで。
まるで。
まるで、あの日の銃声のように。

『パァァァ———————ン』

許してください。

呟いても誰も許してくれないことを知っていた。

だから消した。

その音にすべてをゆだねて目を閉じた。

土の中にゆっくりと埋まっていくように意識が沈んだ。
気持ちがよかった。

本当に気持ちがよかった。

ずっとこのままでいたい。

誰も俺を、僕を、起こさないで。