複雑・ファジー小説
- Re: ついそう ( No.9 )
- 日時: 2012/09/21 19:18
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)
+6+
今まで確実な自信を持って答えていた三春が、一瞬だけど言葉を詰まらせた。自分でも分かっていないだろうというくらいの、小さな躊躇い。
それに僕は気が付かないフリをする。納得したフリをする。僕が不安を見せてはいけない。三春の言うことは絶対正しい。僕が『違う』なんて言う権利は無い。
僕の言葉には足が無い。フワフワしていて、根拠が無い。でも、三春には足がある。三春の言葉には根拠がある。
そのはずだった。
この言葉に本当に足はあるのか?これは、義足かもしれない。そんな疑問が出てきた。
僕に生まれてはいけない、三春への不信感。
「三春と僕が、恋人」
「そうよ」
僕が出した確認も、三春は自信を持って答える。
気のせいなのではないだろうか。さっき感じた違和感は、僕の思い違いなんじゃないだろうか。
三春は、今だって自信を持って答えてくれる。それを疑うなんて、僕は愚かなんじゃないだろうか。
なんで僕は、こんなに三春が正しいって思うのだろうか。
「じゃあ、その、指輪は」
皿をなぜか掴んでいる左手の薬指には、光る指輪がはまっていた。銀色の、シンプルな指輪。三春の細くて長い指にはよく似合っている。
三春は左手を見て、そして、少しだけ驚いたような顔をした。これも、一瞬。僕は分かった。三春が浮かべた、『しまった』というような表情。
なんでそんな顔をするんだろう。僕には全く分からない。
「貴方がくれたのよ」
三春は僕に近づいてくる。僕の手を取って、その中に自分の左手を入れた。僕は手の中の三春の左手を見る。
やっぱり、婚約指輪だ。
僕が、これを三春に。
想像して、顔が熱くなる。きっとなんか言葉を言いながら渡したんだろうな。結婚してください、とか。ずっと一緒に居て下さい、とか。
僕は三春の左手を優しく両手で包んだ。そして、三春をじっと見つめる。
「なんで、僕は指輪をしていないの?」