複雑・ファジー小説
- Re: dark in the ××× ( No.15 )
- 日時: 2012/10/10 18:27
- 名前: 千年樹 (ID: 07JeHVNw)
#4
「……さすがは首狩り屋。 たった一日で全回復か」
「あははー。 ご心配おかけしましたー」
夜一、緑、アルマは室長室……もとい指令室に呼び出されていた。
しかし、室長室と言ってもそれは名ばかりでこの部屋にはたいしたものは揃っていない。
目につくのは椅子と机が一組と、首狩り屋の人数分のロッカーのみだ。
夜一は頬をポリポリと情けなく掻く。左腕をなくしても彼はいつも通りにへらへらと笑っていて、何事もなかったかのようにしている。
……団服の、普段左腕を通すべき"袖"が風にあおられゆらりと揺れた。
「よく、平然としていられるな。 その能天気さ……少し度が過ぎるんじゃないか」
「 左手一本くらい今までに死んでいった皆に比べたら何ともありません」
夜一はそこまで静かな、ただ、何処かに怒りを感じた声で一気に言い上げる。
そして一息おくと次のように言葉を繋げた。
「……長官、自分は生きていられるんですよ」
彼の瞳は木漏れ日の光を集めたように明るいオレンジの色をしている。髪と同色だ。その瞳の中の木漏れ日が揺らめいて、悲哀なる感情を一瞬顔ににじみ立たせた。
「自分は、生きていられるんです」
もう一度、彼はその言葉をまるで台本を読んでいるときのように表情なく口にする。ポツリと、独り言のように。
右手で抱いていた肩から手をほどき、今度は顔を覆う。
ーーーー。
泣いているのか
怒っているのか
はたまた、無表情なのか
それは分からなかったが、再び顔を手の下から覗かせた時には既にいつも通りの夜一に戻っていた。
「だから、俺はなんともないです!」
その夜一の反応にアルマと緑は顔を見合わせ、双方が仕方がなさそうにため息をつく。
「……そうか。だったらいつも通りに勉強再開だな 」
「…………。 緑、悪い。 俺あたま痛くなってきたから勉強はパスするわ」
「こら、逃げんな」
「そうだよぉ。 夜一が、私達第1部隊の中で一番お馬鹿さんなんだからぁ」
緑に加え、アルマが話に乱入する。緑の陰からピョッコリ顔をのぞかせる姿に可愛らしさを感じるが、言葉にはそれと裏腹に棘がある。
「……てめぇら、 病人にはやさしくしましょうという言葉を知らないのか」
「えー? だって、夜一はもう大丈夫なんでしょぉ?」
「そうそう」
「ぐっ…………」
……そんな彼等のやり取りを、長官、アリス=ミルトスロームはやんちゃな子供達見守る、親のような優しくも不安を秘めた目で見ていた。
一つ、溜め息をつくと緩くカールされた金髪をさらりと撫でる。
「そうか……私の心配は、余計だったのかもしれないな。 だったら話は早い。 早速、働いてもらうぞ!」
長官は腰に手を当てて、かかとを揃える。スラックスをとりいれた長官専用デザインの団服がピシッときまっていてかっこいい。
夜一、緑、アルマもそれに続いてかかとを揃えた。
「長官、命令を!」