複雑・ファジー小説

Re: dark in the ××× ( No.9 )
日時: 2012/10/09 13:03
名前: 千年樹 (ID: bHw0a2RH)
参照: スマホ熱くてどうしよう

「あいつのテンションに殺されたんじゃ、たまったもんじゃねーよ」
「はは、同感」
愚痴を溢しながら01、02は×××の様子を再び確認する。
いまだに動揺しっぱなしの×××は、その破壊的行動が収まる気配はない。辺りの退廃した民家を踏み潰し、地面には穴をあける。……もはや"激情"と"恐怖"に任せて体を動かしているようだ。
「まるで赤ん坊だな」
「……でかいし、こんな毛むくじゃらな奴いないだろ」
「まあ、そう言うなって。こいつ片付けてさっさと帰ろーぜ。 ……いくぞ!」

01、02は武器を構えた。彼等の武器は俗に言う"大鎌"である。
無駄な装飾はされておらず、ただただ巨大な刃のみが目を引く。その出で立ちはシンプルながらも威厳と威圧を感じさせる物があった。

ーーこれが、彼等が"首狩り屋"と呼ばれる由縁だ。

ちなみに言えば、04が機関銃を使うのは彼女の趣味である。
彼等の組織は首狩り屋とは呼ばれているが、皆が皆鎌を武器としているわけではないのだ。

「02!」
「おうっ!」

×××の近くまで駆け寄ると、その存在に気づき×××はその場へと容赦ない一撃を叩き付けた。

ーーしかし、もうその頃には二人は×××の足の間をくぐり抜け、背中を一気に駆け上がっている最中だ。
「……まずは、その面」
「拝ましてもらおうか!」
頭蓋骨に鎌を引っ掻けて、思いっきり後方に引っ張る。
二人が地面に着地するのと同時に頭蓋骨もドズンッ! と重低音を響かせて地面にめり込んだ。

『キルエェェェッッッ!!』
×××は悲鳴にも似た叫びをあげる。頭に違和感を感じたらしく、顔の辺りをなで回す。
……そしてあるべき物がないと気がつくと、焦りに咆哮を上げながら駆け回り始めた。
「奴の顔、本当に人間っぽいな」
「人間っぽいっていうより、まんま人間だろ。 少し頬が痩けているところとか、目がギョロギョロしているところとか……アーチにそっくりだ」
「おまっ……仲間に例えるなよ。斬りにくくなるだろ」
「そう? 僕は最近、奴に夕食のデザート取られたから逆にボコりやすいね。 それに、彼女も気にしていないようだよ」
「えーー」

「いっけぇー!! 吹っ飛ばせー!」
ドッ、と鈍い音を立てて×××の顔に命中したのは04の弾丸だ。
続けざまに彼女はトリガーを引き、よろめいて尻餅をついた×××に起き上がらせる隙を与えない。
「……お?」
04は何かに気づくと、パタリと銃撃を止める。
「どした?」
「こいつ、変なんだ。 何か一方行を見つめたままで……」
04は、クイッと×××の見つめている方を向く。……そして奴が何を見ているのか、確信を得ると早口に叫んだ。
「……緊急事態! 人が来るよ! 格好からして一般人!!」
04が指差す方向を01と02は振り返る。
「マジかよっ……」
この×××の動きは遅いにしても、腹をすかせているときに獲物を見つけたとなれば話は別だ。
×××はそこへと駆け出した!

「っ……! 止まれっ!!」
04は再びトリガーを引いた……が、機関銃Αはなんともいわない。
ただ、04の焦ってトリガーを何度も引く音だけがする。
「弾切れ……っ!?」

04が×××を確認すると、奴は既に一般人の目と鼻の先にいた。
その人はポカンとし、両手を無気力に下げて×××が向かってくるのを呆然として見ている。
そして×××が口を目一杯に開けた瞬間……。



ーーあれ、俺……どうしたっけ。



「……ち…………夜一!」
「…………ん?」

掠れたレコードのように呼ばれ続ける名前に、夜一は目を覚ました。

ぼやけた夜一の視界にまず映ったのは、半泣きで顔を赤くしているアルマと見物っぽい目で彼を見る緑だ。
「ようやく起きたよぉ……」
「よく生きてたな。 いや、面白いもんだ」
アルマは声をぐずらせながら泣き出して、夜一をあたふたさせる。
「え……ち、ちょっと。 俺が泣かせたみたいな感じに……え? 何? 俺、どうなったんだ?」

仰向けになったままでいまいち状況の掴めていない夜一は、アルマを慰めている緑に一連の説明を訴える。
「ここは病室だ。……そっか。覚えてないのか。 ……夜一、ちょっと左腕見てみろ」
「え……」

夜一は体を起こそうとした……が、彼はベッドに両腕をつこうとした時点で体勢を崩す。……夜一は、自分の左腕を確認した。
「…………あれ?」



あったはずの彼の左腕は、付け根からゴッソリと無くなっていた。



ーー恐らく、半ば思考が停止しているであろう夜一に緑はさらに説明を続ける。
「お前の左腕な、さっき町人を助けたときに喰われちまったんだ。町人は助かったが、あの×××はお前の左腕を喰ったらすぐに逃げていきやがった。……質の悪い喰い逃げだな」

……ショックを受けたか?と、緑は夜一をチラリと見やった。
しかし彼は特に絶望した様子はない。それどころかニッと笑って。

「……へー。 ま、無いもんはしょうがないな!」
と。

病室にしては不適切な、そしていつもの夜一の大声にアルマは泣き止んで口角を少し上げる。
口元に人差し指を立てると、シーッ、と幼い子供を叱っているかなような素振りを見せた。