複雑・ファジー小説
- Re: やさぐれ白魔導!【第1話1—1更新】 ( No.3 )
- 日時: 2016/11/12 22:28
- 名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: ckXTp97G)
【第2話 「愛の巣」】
朝に引き続き、心地よい雲一つ無い晴れ空が広がる昼下がり。名も分からない小鳥が大勢電柱に止まっている。まるで会話を楽しむかのように鳴き声があたりにこだましている。そしてその下を車が通るたびに忙しげ(せわしげ)に飛び立ち、新たなコンクリートの止まり木にて羽を休める。休日なので誰もいない、誰もいないのだ。
その閑静な住宅地、の奥に山へ続く道が伸びている。ここら一帯は都市部でありながら自然溢れる町で、この住宅地には小さな山が隣接している。その小道を登っていくと、山の中腹ほどに一軒のロッジ風の白い建物が建っていた。木造且つペンキ塗りの厚い塗装が暖かな雰囲気を醸し出している。敷地は一面刈り整えられた芝生に覆われ、小さな赤い洋風ポストの隣には赤レンガ造りの花壇があり、赤白黄色のチューリップが可愛らしく出迎えてくれた。
優乃は一つ溜息をついてロッジのドアを開け、中に入った。
蝶番が軋んだ後、遅れてドアに掛かっていたウェルカムボードが揺れた。
【Weicome To 愛の巣】
******
「——ただいま」
脱いだ靴を丁寧に揃え、靴下を脱ぎ、リビングに入った。今日は土曜日で、しかも午前なので全員揃っているだろう。
「あっ、優乃ちゃーん! おかえり!! って、やだぁ!! また制服で外に出たのね? ウフフ、相変わらず真面目なんだからぁ」
「悪かったね、糞真面目で」
「んもーそういうこと言ってるんじゃないわよ。でも優乃ちゃんのそういうとこ好きよ、あたし」
「洒落にならないからやめてくれる?」
まず最初に優乃を出迎えたのは宮前陽太だった。
優乃と同じ高校に通っており、彼とは中学校からの付き合いである。校則ギリギリの金がかったウルフヘアーで今はソファに横になって通販カタログを読んでいる。
顔はいわゆるイケメンという恵まれたステータスの持ち主且つ、面倒見が良いので交友関係は広い。しかし今の口振りで分かるとおり、オネエ系というこれまた強烈な個性を持っている。そんな彼は雷や電気を司る【雷魔導士】だった。
「おかえりなさい」
次に優乃に声をかけたのは九原真衣(ここはら まい)だった。優乃らとは違い、名のある女子校に通う高校2年生である。ワンピース型の制服の上に飾り気のない純白の皺一つ無いエプロンを着用している。
お茶を淹れようとしていたのかポットを注ぐ手をとめて優乃を見遣った。赤褐色の髪の毛を首の当たりから二つに分けて縛っておさげ髪にしており、おとなしそうな顔つきで少し長い前髪から覗く瞳も優しげで微笑を浮かべている。
優しげな外観には似つかわないが彼女は炎を操る【閻魔導士】であった。
「おっ、早かったじゃーん」
篠田亜花莉(しのだ あかり)である。
優乃、陽太と同じ高校に通う高校1年生だ。
1年でありながらスカートは中身が見えそうなほど短い太もも丈で、校則で義務付けられているネクタイは結ばず。髪の毛はいかにも染髪だと分かるライトブラウンのロングヘアーをアップにしてピンクのヘアゴムで留めている。今は陽太の脇腹に頭を預け、顔も上げずにニヤけながらスマホをいじっている。
リビングの床に放り投げられたスクールバッグは、流行のアクセサリーがごちゃごちゃと付けられている。 そんな彼女はここら界隈では有名なギャルであり、なんの因縁か光を司る【光魔導士】なのであった。
「おかえ——り?? なんだ一体、その雑巾みたいなヤツ」
河野大輝(こうの だいき)は優乃が持ち帰ってきた汚物に対し思わず顔をしかめた。
彼は県立の大学に通う大学四年生である、
純とは古い仲で、共にいる姿をよく見かける。フレームレスメガネをかけていて、傷んだ様子一つ無い黒髪が一層知性を窺わせるところとなっている。【水魔導士】と大学生を両立させている彼はロッジの若きリーダーだった。
いつもは優しげな光を湛える切れ長の瞳が今は慄いている。大輝が言ったさっきの言葉、決して悪気は無いのだろうが、優乃の引きずってきたものはあまりに砂と埃にまみれていた。
「あ、コレですか。——純さんですよ、この人またギャンブルに行ってたもので。まったく、周囲の人の目が痛かったんですよ?」
優乃の口振りから察するに競馬場からここまでずっと純の襟首を掴んで運んでいたのだろうか。まったくもって想像もしたくない。
ゴミを放り投げるが如く純を突き放すが、床に倒れる純は死んでしまったかのように少しも動かない。
優乃は純の白衣のポケットを嫌そうに探り、呆れながら言う。
「ほら、見て下さい」
彼の手に握られていたのは、ポップな字体で名前が書かれたピンク色の紙切れだった。
優乃は顔をしかめ、汚物を触るように人差し指と親指でそれをつまむ。
「この人、競馬場の次は風俗に行くご予定だったらしいです。何度言っても聞かなくて……うわどんだけ通い詰めてるんでしょうか」
優乃は紙切れを千切り、ポケットに戻した。その様子を見て亜花梨は手を叩いて甲高い声で大笑いした。
と、そんな優乃を見て大輝は苦笑し、労いの言葉をかける。
「ご苦労様、だな」
「ほんとそうですよ」
優乃は家の壁掛け時計に目をやった。競馬場で純を回収してきた時間から三十分ほど経っているようだ。
「はぁ、そろそろですかね」
優乃のその言葉に反応したかのようにピクリと純の指が動いた。
徐々に上体を起こしていくがその表情は見えない。しかし次の瞬間。
「痛エエエエエエエエエ!? 優乃、てめえ魔法使っただろ!!」
体を完全に起こし奇声を上げ叫びわめく純。
カーペットが敷かれた床を痛い痛いだのとのたうち回っている。さながら全ての足をもがれた虫か、芋虫ようだった。
そんな純の様子を意にも介していない様子の優乃。
「あ、おはようございます。魔法? 僕、使いましたか? 記憶障害はまだ早いですよ」
ボロ布のようになった純を先刻と同じく見下ろし斬り捨てる優乃。
それをいつものことだと言わんばかりに事を見守り、各々の作業に戻る他四人。
「ああそれと、陽太。外の看板がキモすぎなんであとで外してきて」
「えー? 愛の巣なんてあたしたちにピッタリじゃない? ね、真衣ちゃん」
「えっいえ、私は特に……」
「九原さん。僕はスルー推奨するよ」
ここで六人は共同生活を送り暮らしている。
そう、ここが魔導士らの住まう館、愛の巣(陽太案)であった。
【第2話 「愛の巣」】