複雑・ファジー小説
- Re: やさぐれ白魔導!【特別番外編執筆中】 ( No.66 )
- 日時: 2014/07/09 22:50
- 名前: 日向 ◆N.Jt44gz7I (ID: mkQTRQtj)
【「やさぐれ白魔導! 番外編」愛の巣大掃除】
日々の激務から解放される週末。無論魔獣の情報が入れば週末関係無く出向かなければならないのだが。
窓から差し込む春の陽気が心地良い、朝。夜明けの歓びを小鳥が歌う。
しかし、それすらも鬱陶しげに掛け布団の中に潜り込む部屋の主。
「朝から、うるせぇ……」
煙草臭い部屋、くすんだ白いはずの壁、無造作に脱ぎ捨てられた白衣。似使わない大きな白塗りの薬品棚、床に散乱した成人雑誌、クリスタルの灰皿には山のように積み重なった煙草の吸殻、水分を吸って乾いたティッシュ。
一目瞭然、あの男の部屋である。
息苦しくなったのか、深い息を吐いて布団から頭を出した。
そして丁度頭を出したところに日光が直撃する。
妙な呻き声をあげて、再び布団に潜り込み、手だけを出し、手探りでサングラスを探る。
それを探し当て、装着するころには目が覚めてしまった。
のそのそと布団から抜け出し、渋々伸びをして、目を開けるとマスクとエプロン姿の優乃が仁王立ちでその男、純を見下ろしていた。
「……不法侵入罪で起訴可能だと思うんだが」
「相変わらず煙草臭い部屋ですね。ていうかそろそろ起きて下さい、純さん」
優乃は純に歩み寄り、強引に布団を剥ぎ取る。
傷んだ金髪、無数のピアス穴、就寝前からつけていたであろう首、腕、指の装飾品。昨日から履いていた黒のズボンと半袖Vネック。
蓑を剥ぎ取られ、もそもそと俯せで丸くなる純。
正に目の毒。
優乃は適当に放ってあった白衣をつまみ、純に投げた。
「さっさと着て、リビングに来てください。今日は大掃除をします」
*****
リビングにて純、大輝、優乃、陽太の男魔導士が集った。真衣、亜花莉の女魔導士の姿は見えない。
このリビングは暇さえあれば真衣が片付けているのでいつでも綺麗になっている。純がこの部屋で煙草でも吸おうものなら優乃によって即退場させられる。
優乃はむっとした表情で腕組みをしている。陽太はピンク色のポケットがゼブラ柄がアクセントになっているエプロンを喜々として着用し、今しがた目を覚ましたようで大輝は気怠そうに欠伸をしている。
カーペットさえ敷かれていない地べたに正座させられている純が口を開いた。
「んで、何だって?」
「純さんの部屋から異臭がすると、九原さんと篠田さんから苦情が出たんですよ」
優乃はそう嫌悪を隠そうともせず言い放った。
しかし純は眉一つ動かさず反論した。
「亜花莉はともかく、真衣はそんな事言わない」
「あたかもゴミ屋敷扱いされたことについては反論しないんですね」
「まあ、良いだろ。たかが小部屋の掃除だ、さっさと済ませようぜ」
大きな欠伸を一つ、寝ぼけ眼をこすりながら純の部屋へ急ぐ大輝。背中で結んだリボンを揺らしながら軽やかな足取りで大輝の後に続く陽太。
純も溜息をつきながら後に続いた。
******
「これはひどい」
「ひどいわね」
「やはり臭い」
「なあ、開口一番にそれは無いだろ」
純を除く一同、踏み入れたのを後悔した。室内の様相は今しがた著したが。
殺菌しましょう、と一番息巻いて張り切っていた優乃が入室するのを渋っていた理由を大輝は悟った、これは単なる小部屋の掃除ではない。
「純、最後に俺がこの部屋に入ったのはいつだ……?」
「一ヶ月前くらいじゃね?」
以前大輝は大学のレポートを纏める際、純に手伝ってもらうためにこの部屋で作業したことがあるが、煙草の匂いに多少頭痛がしただけで部屋の様相はここまでひどくなかった。
純の横で頭を抱えていると陽太がごそごそと薬品棚の引き出しを開けて、何かをつまみだした。
真っ黒で背表紙も何もない、形はDVDケースのようだ。
「やだ、何これー? 真っ黒のDVDケース? なんかやらしー」
「おい陽太、勝手に人のモン漁んな」
「あっ、ちょっとぉ」
純は早足で陽太に近付き、ケースを取り上げた。
少し拗ねたように陽太は上目遣いで純に中身を訪ねた。
「ねえ純ちゃんそれってなんなの?」
「DVDケースだよ」
「違うわよ、中身のことよ」
「あー? これな、これなー。外国から取り寄せたの無修正モンのエロスナッフだよ」
部屋の温度が下がり、地雷を踏んだ陽太の表情が凍てつく。大輝は咳払いを一つ、ずれた眼鏡を元の位置に戻した。
優乃は部屋の隅で箒を掃く手を止めずに言った。
「それって法に触れないんですか……」
「ヤらせ偽物臭いからセーフだ」
「逮捕です」
無表情で純からそれを奪い取ると、そこらに落ちていたガムテープでパッケージをぐるぐる巻きにすると、既に半分ほどゴミでうまった燃えないゴミの大袋に放り込んだ。
その様子を見た純は優乃の肩を景気よくぱんぱんと笑いながら叩いた。
「ん、なんだ欲しいんだったら素直になれや、もうそれは見飽きたからそんな手荒にしねーでもやんぞ」
「大輝さん、そのクリスタルの灰皿こっちに……そうだ陽太はバケツ一杯の水と麻袋を」
「優乃、勿論冗談だ」
******
「全く、何時間かかったんですか」
朝から始めた大掃除、気がつけば部屋から差し込む日差しは強く、陽が高く昇っていた。
あんなに汚くモノが散乱していた部屋もなんとか片付き、壁に染み込んだ諸々はとれないものの優乃の芳香剤散布が功を奏したらしく、匂いも気にならないレベルまで落ち着いた。
その代わりに純の部屋の隅にはダンボールの山ができていた。
純は優乃の小言は聞き流しつつ、白衣の裾でサングラスのレンズ部分を拭いている。
「片付いたんだし、良しとしようじゃないか。昼飯でも作るよ、たまには真衣たちも休ませてやらないとな」
大輝はドアノブに手をかけ、純の部屋から出て行くのと同時に、陽太がぱたぱたと駆け寄り。
「大輝ちゃん、あたしも手伝うわ」
陽太は勝って兜の緒を締めよ、とエプロンの背中のリボンをきつく結い直してぱたぱたと大輝の後を追いかけた。
取り残された優乃と純は互いに顔を見合わせた。
「なにアイツらできてんの?」
「そんな訳無いでしょうが。さ、純さん、僕たちもリビングに行きましょうか」
そう言い残し優乃は純より一足先に部屋から出た。
純は優乃の足音が遠ざかるのを聞き届けると、やおら立ち上がり薬品棚に向かった。
その上から二つめの引き出しをそっと開けた。中身は古ぼけた医学書がたった一冊あるのみだった。
「よかった、捨てられてなかったんだな」
ぽつりとついでた一言。誰も聴く者は無し。
純はその本の有無だけ確認すると本を引き出しへ戻し、そっと引き出しを閉めた。
そして皆の待つ食卓へ向かう為、ドアノブに手をかけた。
【「やさぐれ白魔導! 番外編」愛の巣大掃除】