複雑・ファジー小説

Re: 世界を作る、霧の様な何か。 10/20いちほ中 ( No.5 )
日時: 2012/10/22 17:12
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

 別に何もしていない。とか、急に泣き出しちゃったのよ。とか……。私の聞いてる声も分からないくせに、分かろうともしないくせに勝手なこと言わないで欲しい。私の何が、私の何かが、分かるとでもいうのだったら、きっと私は今すぐにでも激昂してしまいそうで。
 それほどまでに、私は心に負荷が掛かってしまっている様で。けれど誰も気付きはしないようで。気付いたのはたった一人、白いシャツが輝く彼だけで。それも唯の偽善なんじゃないですか、とか聞いて見たくもなる。

「偽善じゃ、ないよ」

 頭を揺らす声の変わりに、その見た事もない彼の声がすっと通ってきた。私の感情が、心が、まるで全て吸い取られているような、そんな錯覚。ストローでジュースを吸い込むより簡単に。けれど熱々の味噌汁を吸い込むのには劣るような、そんな不思議な感覚だった。

「俺は、君と同じだから」

 再度聞こえた声が、心に染み入る。じんわりと広がり、心の全てをゆっくりと包み込んでいった。彼も同じ体質なんだ。私一人じゃない。一人ぼっちじゃない、そう思うと不思議にも彼が心強く思えた。
 実際には、彼が居ることで心強く思えるようになっている。たった一人の世界に、差し込んできた一筋の光のような……。救世主のような、そんな感じだ。

「せんせー、んでさ、この子なんで泣いてたの?」

 はっきりとした、有声音。頭に響くものではなく、しっかりと聴覚から頭に響いてくる声だった。その声に安心できても、私は一切の表情を変えない。変える事が、できないのだ。
 次に響く言葉が、白衣の堕天使たちの有声音が、形容し難い恐怖を私に植え付けている。私が一言でも発せば、その瞬間彼らの声が私を引き裂くのだろう。四肢が分裂し、そこからドクドクと止まない血を流しても、きっと終わらない地獄が待っているのだろうか。

 瞬間的に肩の付け根と太ももの付け根に意識が持っていかれた。今直ぐにでも、力強く付着する肩が、太ももが、ぽろりと取れてしまいそうに思えてくる。怖いというよりも、その後の惨劇がどのように処理されるのかが、私は気になっていた。

「何もしていないが。彼女が急に泣き出したんだ」
「下らない事で一々病室まで入ってきおって。迷惑だとは思わんのか」

 始まった。……あの痛みが、脳を揺らす。有声音と共に頭を揺らす声が、一番辛い。二重に揺らされて、三半規管が機能しなくなるような錯覚にも囚われる。ぐるぐると私を中心に、地面が歪むような、そんな感じだ。