複雑・ファジー小説
- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —宇宙の楽園— 1−1執筆中 ( No.10 )
- 日時: 2013/03/05 20:18
- 名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part1
ガルガアース第14居天体フレイア居住区。そこは、徹底的に整備された町並みが特徴とされる街区だ。
東西南北。そして中央の5区に大別され、貧民層、上流階級層というような社会階級で、主要5区にそれぞれ配属されるしくみになっている。中央に特権階級がつどい、南部に貧民区が設けられ、ほかの区は中層の者達を所得順にわり振る形だ。
さらに5区の中にはそれぞれ教育機関、レジャー施設、ショッピング区画というふうに、細かく特徴別けがなされている。
そんな徹底した差別化に、領分を侵害するなっていう警告めいたものを、俺は強く感じている。
だからこそ息ぐるしくて、外に逃げたいんだろうな。
そんなことを考えながら、なるべく目の前にうつる浮世を見まいと、視線をおとす。
心配になったのか、となりを歩くノヴァが声をかけてくる。
「うーん、ヴォルトォ、顔暗ーぃ!」
ごまかすように周りを見回し、たまたま目に入った円状の移動装置を指さし、俺は言う。
「あぁ、瞬間移動装置(テレポートマシン)って、あらためて考えてみると、不思議だなって思ってさ」
居住区のいたるところに設置されている、円形のサークル。名をテレポートマシン。
それはフレイア住民にとって、もっとも需要の高い移動装置だ。
フレイア居住区内に総数300000以上も存在するそれは、周りを見回せば必ず1つやや2つ見つかるような有り触れたもので。つまり彼女が俺の言葉に不信感を抱くのは、至極当然なわけだ。
やばい、へましたなぁ。俺は苦笑いを浮かべる。口にした言葉も、何か震えていた気が。
上の空で変な笑い声を上げる俺を見ながら、ノヴァは少し呆れ気味な口調でつぶやく。
「テレポートマシンが不思議って貴方……」
ノヴァの呆れ声を聞きながら、俺はテレポートマシンについて、もてる少ない知識を羅列する。
彼女の疑惑に満ちた表情を解きほぐし、俺への不信感をそらすために、突破口を探す。
円内に足を踏み入り、行きたい場所を携帯機器で送信すると、その場所の最寄にあるテレポートマシンに飛ばされる仕組みだ。現在技術の粋を結集して造られた機械らしいが、仕組みは全く分らない。おそらく、使用している住民の大半がそうだろう。
俺の情報が正しければ、超能力者(アドンプレイヤー)の細胞を使って、開発されたものらしい。表向きは、本人と家族が承諾した上で細胞提供が行われた、クリーンな実験成果だとされているが、不審な点も多く。
陰謀の臭いがするなどと、人間不信者や陰謀好きの厨二病が、ネット上でまことしやかにささやいてたりする。
なんてという戯言を、ノヴァの前で吐く。
そんな俺の口から出任せを本気にしたのか、ノヴァは慌てふためきアタフタと手足を動かす。
どうやら、俺が本気で精神的にやばい状況にあると勘違いしたらしく、俺のことを慰めようとしているようだ。
「いやいや、珍しくもないじゃん。ヴォルトはいろいろと疑い過ぎだってぇ。実はテレポートマシーンは陰謀の産物だぁ、とかもう少し明るい想像をしようよ? 現実、悪意の元に生まれたものだとしても、私たちはそれを当たり前につかってるんだから……あぁー、分んない! 難しいこと考えさせないでよぉ!」
挙動不審でギクシャクした動きと、ただでさえ高く愛らしい声が上ずっているせいで、なんだか人間とは違う、とても可愛い生物を見ている気分になる俺。やべぇ、完全に恋のフィルターかかってるよ。
俺のとっては目の保養だが、このまま放置しておくと、永遠に続きそうだな。
さすがに周囲の通行人さんがたも、うるさがってるし。ここは、あやして止めるのが正解かな。
「いや、さ。落ち着けってほら? ちょっと妄想して、勝手に怖くなっただけだから! つーか、今は普通の顔してるだろ!?」
「ほぇっ? うっ、うん、馬鹿みたいに取りみだしちゃってゴメン! まわりの目だってあるのにね」
俺はつくり笑顔で、ノヴァに安心して良いんだとさとす。
ノヴァはアホみたいな奇声を上げ、取りみだすのをやめる。
どうやら、近くを歩いている人たちや、近所の住民たちが怪訝な目で俺たちをみていることに、気づいたらしい。ノヴァは頭を下に向け、反省した表情をううかべ俺に謝る。
ただでさえノヴァは、綺麗な顔つきと珍しい黒髪黒目があいまって、周囲から注目されやすい。
それゆえ少し声を上げただけで、おおいに脚光を浴びてしまうのだ。
目立つ彼女には、昔から敵も多くて。人の視線が怖くて、外を歩くのも辛かったんだ。
そんな弱かったノヴァを知る俺はさ。
彼女を愛する男として、責任を持って護ってやらなければならないと、本心から思うんだ。
過去に思いをはせていたときだ。ノヴァの細くて白い指が、俺の腕をつかむ。
先ほどより髄分とおさえた声で、彼女が話しかけてくる。
「ねっ、ねぇ、ヴォルトォ? 景気付けに一発カラオケいかなーぃ?」
「景気付けって、お前。意味分って言ってるのか?」
うん。景気付けって何のだよ。と、苦笑しながら、俺はノヴァの揚げ足を取るような発言をする。
「分ってるよぉそれぐらいぃー!」
ノヴァは、馬鹿にしないでよね、と少し怒ったような口調で答えた。
俺はその反応を見てますます楽しくなってしまって、イジワルをつづける。
「本当か? じゃぁ、答えてみろよ?」
「うっ、ちょっと待ってて。しっ調べるから! いや、分ってないわけじゃないんだからね!? だっ断じて違うんだから!」
するとノヴァは口ごもりながら、小型電子辞書をポケットから出す。
実際、意味を答えろといわれると、人間返答に困るものだよな。
例えばそうだな、宇宙とはどういう意味か答えよ、とかいきなり聞かれて、すぐに細かく解を述べれる奴って、かぎられてるしな。
そんな気紛れ半分のちょっかいを、本気にするところが愛らしいじゃないか。
俺の言うことにかんしては、どんな些細なことでも本気で考える。本当におもしろい奴だと思う。
一生懸命答えを探しているのを見るのも面白いが、時間は惜しいしそんなに返答に興味もないので、そろそろ目的地に行くとするか。ということで、俺は辞書とにらめっこしているノヴァに声をかける
「冗談。冗談だって。まっ、最初からカラオケ行く予定だったろ? 行こうぜ」
「うん。そういえばそうだったね。ってか、誘ったの私だよ」
俺の言葉を聞くと、ノヴァはワード検索中にさえぎったりしないでよとブーたれながら、検索をキャンセルした。
そして、ポケットにシャーペン型の電子辞書をしまう。ノヴァの言葉を聞いて、俺はぼやく。
「全くだ……この早とちりめ」
今は、午後2時。朝十時ごろにノヴァから、午後からカラオケ行こうって、メールが来て、指定された時間の1時に到着。
彼女を1時間ほど待っていたわけだ。はぁ、本当に忘れていたわけじゃねぇだろうな。それはないか。
ノヴァは少し天然っぽく見えるが、物忘れ激しいわけでもないし。
上の空でそんなしょうも無いことを思索していると、なんだか後ろめたいことでも有るのような、上擦ったノヴァの声が俺の耳に届く。
「ところでヴォルト? お金はどっちが払う?」
「あっ、呼び出したほうだろ普通」
俺は間髪いれずに答える。ノヴァもすかさず反論。
「そっ、そこはほらっ! 男として格好つけるところじゃないかなぁ?」
どうやら金が無いようだ。普段ならこんなこと言わないので、最初から予想はしていたが。
てか、自分の財布事情ぐらい把握しとけよ。俺はあきれた風情で、自分の額に掌をあてる。
そして、返してもらうことを前提に、承諾した。
「あぁ、お金がないわけね。しかたない。貸しだからな」
ノヴァはなの混じり気もない太陽みたいな満面の笑みをうかべ、俺の手を握り礼を言う。
「ありがとうヴォルトォ! 話の分る男は好かれるよぉ。1週間後のお祭りまでに返すからっ」
「オーケー、了解した。じゃぁ、行こうか」
1週間後。それは、フレイア最大の祭り、サンファンカーニバル初日。
多分、サプライズ混みの判断なのだろう。
もしかすると、それのためにノヴァはお金をたたいたのかもな。
俺は微笑を浮べ、ただ肯定した。そして、空いている最寄のテレポートマシンへ行く。
カラオケボックスのある区画へ飛ぶために。
End
Next⇒Part2へ
________________________________