複雑・ファジー小説

Re:ラストシャンバラ 〔A〕 —最後の楽園— 1−1-5 ( No.42 )
日時: 2013/03/05 20:24
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part5

 うるさい目覚ましの音が響く。
 起き上がり、目覚し機能を止める。
 みょうに長く感じた日曜日が終わった。

 「寝起きが悪いな、肩がいてぇ」
  
 俺は狭いベッドの上で、肩の凝りをほぐすために手を振り回す。
 二段ベッドだったら、上にぶつけて裂傷おこしてたところだろう。
 あぁ、なんと思慮の足りない。
 そんなことを脳内でぼやきながら、俺はベッドから出る。
 まだ、ねみぃし時間もあるので普段なら二度寝するところだが、今日はどうにもそんな気になれず。
 あぁ、こんなときはさっさと飯食って、ノヴァに会いたい。
 家の中にいたって、なんの面白みもないしな。

 俺はカーテンも開けず、部屋を出てキッチンまでむかう。
 いつものことながら、職務開始時間の早い母はすでに出勤したようだ。
 ノヴァから乗り物酔いを起こしたことを聞いていたらしく、昨日はものすごく取り乱していたのだが、さすがは俺の母親というべきか。
 普通とは違う精神の持ち主で……
 俺が疲れたと言って寝たあとは全く騒がなくなったし、俺に声をかけることもなく出ていったらしい。
 少し寂しい気はするが、それでいいと思う。
 しょせん、母なんて俺にとってノヴァとは比べるべくもない位置づけの人物だ。

 テーブルの真ん中には、インスタント臭丸出しの容器に入ったカルボナーラ。
 ずいぶん経っているはずなのに湯気が立ち続けているように見えるのは、単なる視覚を利用したトリックだ。
 最近のインスタントは冷めていないから旨いですよと主張したいのか、白い蒸気を放ち続ける仕掛けがほどこされている。
 今日の朝食。
 俺は食器置き場にあるフォークを無造作に取り、グラスに水をくんで手を合わせた。
 
 「いただきます」  
 
 食材に感謝の言葉を送る。
 そして、俺はフォークを使い、カルボナーラをいっきに食う。
 味なんて感じるつもりはない。
 流し込む。
 そして、グラスに注がれた水を飲み干す。
 
 食器を片づけ、外へでしょうとする俺を止める声が響く。
 機械的な女声。
 40年くらい前から普及し始めて、今ではフレイム住民にとってなくてはならない存在。
 通称オペレーティングシステムだ。
 しょうじき、俺はこいつが苦手だったりする。
 一々、栄養計算だの宿題やったかだの、まるでやかましい姑(しゅうと)みたいな奴なんだよ。
 まぁ、そうプログラミングされてんだから仕方ねぇけどな。

 「ヴォルト様、パジャマデオ出カケニナルツモリデスカ? 今日カラ学校デスノデ制服ニ着替エルコトヲ推奨シマス」

 機械的な口調で指摘するシステム君。
 しょうじき、うざったいが奴の言うことは正しい。
 さすがにこの格好では外にいけないよ。

 ってことで俺は、自室に戻ってクローゼットから制服を出し、着替える。
 紺のブレザーに赤のネクタイ、どこにでもある一般的な制服。
 好きではないが、さすがに2年以上着ていると結構なじむ。
 俺は髪をとかし、歯磨きをすると今度こそ外に出る。
 途中でオペレーティングシステムがなんか言ってきたが、無視だ無視。

 外に出ると、すでに到着していたらしいノヴァの姿。
 多分、俺が心配でいつもより速く来ていたのだろう。
 近所の野良猫を捕まえようとしている姿が微笑ましい。
 スマートフォンのタブレットを見て、俺は時間を確認する。
 いつまでも見ていたいものだが、そうも行かないからな。

 「よーし、猫ちゃーん、逃げるなよぉ」
 「ニャアァッ!?」
 「あっ、またにーげぇらーれーたあぁぁぁぁっ! そんなっ、そんなに私のことが嫌いか猫ちゃん」
 
 ノヴァが射程圏に入る直前のところで、猫は悪寒を感じたのか気勢をあげ逃げ出す。
 頭を抱えながら、また捕まえられなかったあぁぁっと大声で嘆くノヴァ
 彼女はけっこうな猫好きで4匹ほど猫を飼ってます、はいどうでも良い情報ですねすみません。
 嘆く姿もかわいらしいのでいつまでも見ていたいが、やはり学校という予定があるのでいつまでもというわけにもいかない。
 今日は少し長めに見れたからいいやと、心に言い聞かせながら俺はノヴァに声をかける。

 「ノヴァ、そろそろいかないとまに合わなくなるぞ?」
 「ほっほえぇっ!? いつのまにいたのヴォルトッ!?」
 
 どうやら完全に俺の存在には、今まで気づいていなかったらしい。
 仰天し危うく倒れかけるノヴァの手を、俺はつかみ体を支える。

 「お前、不注意すぎ。全く世話が焼けるぜ」

 あきれた表情をする俺。
 そんな俺に、なぜか赤い顔をしてノヴァは謝ってきた。

 「ゴッゴメン!」
 「ん? 当たり前のことしたつもりなんだが、なぜ謝るんだ?」

 いぶかしがる俺の手を強引に握ってノヴァは、テレポートマシンへと駆け出す。
 どうやらなんか俺は失敗をおかしたらしい。
 だがその失敗が全くわからず、俺は思案する。
 彼女と知り合いもう長いが、分からないことのほうが多いのは俺が鈍いからだろうか。
 そうは思いたくないが。

 そんなこんな戯れているあいだに、テレポートマシンが迫ってくる。
 昨日は、レジャー街まで歩いて行ったが。
 徒歩だと時間的に間に合わないだろうし、成績優秀優良青年でいたければ使うしかなさそうだ。
 昨日あんなことが起こったばかりだってのに、俺少し暢気すぎじゃねぇ。
 あーぁ、俺もノヴァをとやかく言えないな。

 「ヴォルト、テレポートマシン大丈夫?」
 「どうだろうな。できれば遅刻しても歩いて行きたいが……」

 わざわざテレポートマシンの近くまで引っ張ってきたのは、どれだけ俺がコイツに恐怖しているのかを確認するためだったらしい。
 ノヴァはいつもとは違うまじめな口調で俺に問う。
 俺は嘘をついても仕方ないと、間髪いれずに本音を口にした。
 ノヴァは予想通りの返答だ、と笑みを浮かべながら言う。
 俺はホッと胸をなでおろす。
 これでテレポートマシンを回避できると思ったからだ。
 だがノヴァは、容赦なく俺をテレポートマシンへと突き飛ばして言う。

 「多少荒療治(あらりょうじ)になるけど、けっきょくはマシン酔いは慣れでしか解決しないみたいだよ?」
 
 くそっ、医者の野郎、余計なことを吹き込みやがって。
 だが、その日俺は全く違和感なくテレポートを済ますことができた。
 それから、毎日テレポートを使ったが4日経っても一度も症状はでない。
 けっきょく、あれはなんだったのだろう。
 ただの乗り物酔いとは決定的に違うなにかを感じた“アレ”は一体——


 
 

  

End

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