複雑・ファジー小説

Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-6 更新 ( No.52 )
日時: 2013/04/13 16:48
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 ジリリリリリリリリリリリリリリッッ。
 あぁッ、あーぁっ、うるさいなぁ。
 文明はどんどん進化していくのに、なんでコイツはいつまでも喧しい騒がしやのまんまなんだ。

 「うるせぇよ、そんなに騒がなくたって起きるから……がなるなって」

 起き上がる。
 もっと、優しく揺さぶるようにして目を覚まさせておくれよ。
 ほやきながら時計の停止スイッチを押す。
 そして、気づく。

 「4時だと?」

 俺はどうやら3時間も起床(きしょう)予定時間を間違えて、朝4時なんて馬鹿げた時刻に時間設定したらしい。
 どうしよう。
 しょうじき眠いし、2度寝したいが。

 「あぁ、今日からサンファンカーニバルだよ俺。下手なことして待ち合わせに遅れたりしたらピエロだって……」

 7時半に学校前で集合。
 3時間半もあるわけよ。
 ほんとうどうしようかね、飯食うのもあれだし……
 いっそのこと集合場所に先に行って、寝てようかな。
 寝袋でも持ってって、人目につかないところで。
 あぁ、もちろん冗談ですよ。
 うん、やっぱもっかい寝よう。
 時間設定間違えなければ良いわけだしさ。

 「今日の朝7時に起こしてくれ」

 再三、時間を確認して俺は目を瞑(つむ)った。
 脳が麻痺していく。
 まどろみに落ちていく感覚。
 その数秒後。
 絶望して涙を流す俺の姿が見える。
 テレポートマシン酔いを起こした日曜日いらい、夢見が悪いのは珍しくないので気にしない。
 あぁ、だって俺が悲しむだけなら、全然俺は構わないわけだしよ。
 なんで俺は自分が悲しんでいる理由のほうを、考えようとしなかったんだろうな…… 
 

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part7


 
 ジジジジジジジジジジッ。
 あぁ、今度こそ時間だ。
 うん、外の雰囲気からしても7時くらいだな。
 時計の時間を見ても、間違いないだろう。
 よし、いくぞ。
 服は用意してあるからすぐ着替えれるし、今日は母もいるから飯も心配ない。
 俺はそうそうに着替えて、階段を下りる。
 リビングのドアが、音もなく自動で開く。
 高い上背とくたびれた顔が特徴的な40台後半の女性が座っているのが、すぐ目に入った。
 母だ。
 髪の色は金髪で目の色ブラウン、珍しくもない一般的配色です。
 そんなノヴァと比べて、あまりに無特徴な母に俺は挨拶をする。
 
 「お早う母さん」
 「えぇ、お早うヴォルト。ご飯は作っといたから、さっさと食べなさい。ノヴァちゃんより遅かったら情けないわよ?」
 
 母は俺が挨拶したりすると、いつも目を瞬(しばた)かせる。
 まぁ、俺と母の関係が薄い証明みたいなもんだな、と思う。
 とりあえず俺は母の台詞に反対する理由もないので、すぐにイスに座った。
 今日のメインディッシュはステーキらしい。
 普通ならすごい嬉しいんだが、朝からってのは辛いです。
 まぁ、今日はキツい1日なるだろうって、母も理解しているからなんだろうけどさ。
 とにかく俺は時間に遅れまいと、手早く食卓に並ぶ食材を口に運んでいく。
 
 「あんた、いただきますはどうしたのかしら?」
 「いや、ちゃんと言ったって!」
 「どうだか……ねぇ、オルタナ。言ったかしら?」
 「ヴォルト様ノイタダキマストイウ肉声ハ確認デキマセンデシタ」

 あぁ、面倒くせぇ。
 んなこと、いちいち言う必要ねぇと思うんだけどな。
 親父が日本出身科学者の血ィ引いてるからってさ。
 懇切(こんせつ)丁寧にシステムの野郎、固体名オルタナ君も質問に答えるなって。
 俺が悪者みたいだろ。
 とりあえず俺は配膳(はいぜん)されたステーキを全部食うと、牛乳を飲み込んで喉につかえかけた食い物を流し込む。
 そして、手を合わせごちそうさまを言ってから、立ち上がる。

 「7時10分、急いだほうが良いんじゃないかしら?」
 「分ってるよ!」

 なぁ母よ、いちいち茶々入れないでくれ。
 俺はそう思いながら足早に洗面所に向かい、歯磨きと髪の手入れ、洗顔をすます。
 そして、財布をジーパンのポケットにつっこんで、外へ出た。

 すぐ近くにあるテレポートマシンを使い学校の近くまで飛ぶ。
 学校の周辺もすっかりサンファンカーニバル用の屋台などが立ち並んでいて祭りムード1色だ。
 早朝からご苦労なことで、皆似出しだの足早にやっている。
 めまぐるしいほどに。

 しばらくのあいだ、屋台のおっさんたちに目を奪われていた俺は、本旨を思い出しノヴァの姿を探す。
 きょろきょろと目を皿のようにして見回すが、まだノヴァはいないみたいだ。 
 俺はホッと胸をなでおろした。
 男が女を待たせるとか情けなすぎるからな。
 
 「しっかし、朝早くからにぎやかなことだぜ」

 そして、普通の人は休日である祭日にまで仕事している商人さんたちに、エールを送る。
 そんなとき、後ろから声。
 俺の愛する麻薬のような甘い、声がとどく。 

 「ねぇ、ヴォルト君の低血圧具合からすると、こいつらおんなじ人間かぁって思っちゃうよねぇ?」

 あれ。
 そっちはテレポート装置ないですよねノヴァさん。
 あぁ、今日の水色ワンピースも美しいよ。
 もちろんさ。
 俺はノヴァの頭の先から爪先まで愛せるんだから。
 違う違う違う違う。
 そういう問題じゃなく、もしかして俺はノヴァより遅れて来たってことか。
 いや、待て。
 俺が屋台のおっさんたちに見とれているあいだに彼女が到着して、俺の死角を横切ったって可能性も、ももももももも。
 あっあるわけがないよな。
 だって、俺がノヴァの香水の香りを間違えるはずがっ。

 「ノッノヴァ!? いっいつ来たんだ?」
 「ん? ははっ、朝早く目覚めちゃってさ。6時に学校ついてたよ。そんな時間にヴォルト君むりやり起こすのも悪いし……それにしても、サンファンカーニバル中って凄いよね!? ほとんどの仕事場休みなのに、学校全開放されてるんだよぉ! まぁ、学校でやるイベントもあるから仕方ないっていえば仕方ないんだけど! それにしても、精神チェックや肉体チェック済ますだけで学校の敷地内で眠れるとか驚いたわぁ。ほんとう」

 あっ、あぁ、後半のほうは常識外過ぎて俺にはなんのことだか訳が分らないが、これだけは分るよ。
 俺はノヴァよりずーっと、遅くに学校に到着したんだよ。 
 そしてノヴァが起きてくる少し前に、ギリギリで到着できたってだけってこと。
  
 「そんな、馬鹿な。俺がノヴァより遅れるなんて」
 「ははは、そんなに嘆かないでよぉ。けっきょく私は遠足待ちきれなくて早起きしちゃう子供ってことじゃん?」
  
 まぁ、そういう解釈もできる、のか。
 できるか、できるわけだが。
 でも、今までの無配記録が破られたのは、ショックだよ。
 なんて言うかさ、彼女は頼りなくて消えそうだから、俺しっかりしないといけないって思ってたんだ。

 「ねぇ、ヴォルト? 今回は私が早過ぎただけじゃん? 普通1時間早く来るとか逆に嫌われちゃうよ。だからさ、10分前に到着したヴォルトはむしろ大人の判断を取ったんだよ」

 甘い声。
 フルーティーな香り。
 あぁ、どうでも良いや。
 どうやら、俺はノヴァという蜜に釣られて踊る傀儡(かいらい)らしい。

 

 
  

End

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