複雑・ファジー小説

Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-7 更新 ( No.54 )
日時: 2013/05/01 15:50
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 今回から文字数減らします

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part8

 俺達は的屋や屋台を回りまくった。
 俺自身はそんな食べ物とか射的なんて興味なくて、ただ無邪気に目を輝かせる彼女を見るのが楽しいだけだが。
 ノヴァはなんでも人並み以上に楽しめる少女で、俺は人並み以上になんにも楽しめない情けない男。
 あぁ、良いバランスなんだと思う。
 
 ——さよなら。
 
 彼女の綺麗な横顔に酔いしれていたとき。
 あの漆黒の中で聞こえた悲しい声。
 
 「あっ」
 「ヴォッ、ヴォルト君!?」
 「おっ、おい! どうした坊主、大丈夫か!?」
 
 俺は動揺して左手に握っていたラムネのビンを落とす。
 頑丈に作られたビンは落下の衝撃で砕けることはなく、鈍い音を立ててレンガ造りの床に転がった。
 凄い勢いで振られた炭酸が消えていく。
 パチパチと何かが砕けるような音を立てながら。
 
 驚くノヴァの声を聞き、俺は現実に引き戻される。
 そして心配そうに俺の顔を見るお面やの親父に、会釈してその場を逃げ出す。
 絶対怪しまれただろうなと思いながら路地裏で一息。

 「ノヴァ、さよならなんて……さよならなんて! 言わないよな!?」
 「どうしたのヴォルト君?」

 普段なら絶対誰かしらはどんな小道にだっているだろうが、サンファンカーニバル中は例外だ。
 皆が祭りに酔いしれ大通りの方に言っている。
 いや、正確には誰かしらが聞いていても構わない。
 これだけは確かめたいんだ。
 爆発する思い。
 ノヴァには言うまいと思っていたこと。

 でももう無理だよ。
 ただ俺の精神が弱いことを恨む。
 案の定戸惑っているが、聞かずにはいられないんだよノヴァ。
 頼む答えてくれ。

 「答えてくれよぉ」
 「全く、何情けないこと言ってるのかなぁ? 私がそんなこと言うわけないじゃなーぃ? だって、私はヴォルト君なしじゃ存在できないんだから」
 
 良かった。
 きっと、彼女は事情を分ってない。
 その言葉が欲しいだけなんだよ俺は。
 それが嘘でも本当だったとしても、俺は気休めが……欲しいだけなんだよ。

 「全く、凄い顔してるなぁ。いなくなれるわけないよ。こんな子供な君を置いていけるわけがない」
 
 そう言ってノヴァは俺を抱きしめる。
 耳元で彼女は言う。

 「泣け。ほら、泣いて泣いて泣きまくってさ。いつものあの厳しい顔になってくれないと困るよ私」

 

 
  

End

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