複雑・ファジー小説
- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-8 更新 ( No.58 )
- 日時: 2013/06/03 18:21
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part9
『情けねぇ、情けねぇよ……俺、女の子の胸で男泣きしてるんだよ!? でも、止まらない。止められないんだよ涙がっ、叫びが!』
どこまでも弱い俺。
それを母性という大海で受け止めるノヴァ。
もう、何分泣いただろう。
軽くは10分は泣いた気がする。
目が腫れて痛いけど、それより自分の弱さが呪わしい。
「ゴメン、ノヴァ。心配かけた」
でも今更、弱さを否定しても何も進まないさ。
分かってる。
俺はノヴァの優しい手を振り解く。
そして無理矢理笑みを浮かべた。
「うーん、大丈夫。私は君のためなら何でも許せるから。だって、貴方は私の愛し人」
「恥ずかしいからやめてくれ」
恐いほどに神々(こうごう)しい女が目の前にはいて。
恐いほどに俺は自分なんかには勿体無いと嫌悪する。
でも駄目なんだ。
彼女自身俺を許して求めているんだから。
「何よいまさらぁ?」
恥ずかしがる俺にノヴァはぼやく。
どうやら誰にもばればれだったんだってこと伝えたいらしい。
「とにかく、祭り……あぁ、そうだ」
「何?」
俺は今の状況を打開するために祭りに無理矢理没頭(ぼっとう)しようとするが。
途中で思い出す。
あぁ、委員長に情報貰ってまで買ったプレゼント。
今ここで渡さなかったら永遠にチャンスを逃しそうだ。
俺はポケットから握りこぶし大程度の箱を出す。
ノヴァが目を丸くする。
「これ、ノヴァ欲しがってたろ?」
少し視線を泳がせながら、ノヴァにその箱を俺は何とか渡した。
「ヴォルト君!? あっあわわわわっ! えっ、えっと、私からもプレゼントがあるんだっ、受け取ってくれるかな?」
「勿論だ」
心の底から嬉しそうな表情を浮かべてノヴァも俺にプレゼントを渡す。
ゆったり目の服を着ていることが多いノヴァだから気付かなかったが、結構大きな物を持ち歩いていたんだなと驚く。
少なくとも俺が渡した握りこぶし大の箱の数倍はある。
どうやら古書のようだ。
題名は“創成期第5文禄”1年近く前から欲しいと思っていたプレミア物の古書。
値段にして20万は下らないはずで……
あぁ、ノヴァが最近バイトに本気なのはこのためだったのか。
お前本当に馬鹿だろ、そう胸中でつぶやきながら口からは驚嘆の声が出ていた。
多分、心の奥底での本音が口を突いて出たんだろうな。
「こっこれっ! えっと、ヴォルトが欲しがってた奴」
「高かったろこいつ……」
「高いとか易いとかどうでも良いよ! 君が喜んでくれれば!」
俺の買った奴なんて3ドルしかしない安物だってのに。
これじゃ俺がピエロだ。
そう心の中で自分の情けなさを恫喝(どうかつ)する俺に、ノヴァはサラッと言ってのける。
あぁ、こいつの笑顔を超える価値のあるものなんて……俺にはっ。
End
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