複雑・ファジー小説

Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-9 更新 ( No.61 )
日時: 2013/08/15 07:50
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
参照: 久々更新なので少し長くなりました——

 ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
 第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part10

 俺の涙雨も止んでそれなりに時間がたった。
 まぶたが痛くなるほど泣いたせいか、心は明鏡止水(めいきょうしすい)のごとく穏やかだ。
 ってほどでもねぇか。
 つーか、さっきからノヴァが俺のこと君付けしねぇで呼ぶんだが、これは関係が進展したってことでいいよなぁ。
 いいよなっ、なっ。
 誰に言ってんだよ。
 テンパって勝手に嘆息とか、全然落ち着いちゃいない俺。

 「あっ! もう、パロパロ大会始まっちゃうじゃーん! 急がないとっ! ほら、行くよヴォルトッ」
 
 そんな俺のすそを引っ張りながらノヴァがいきなり大声を出す。
 あぁ、もう12時前かっ。
 パロパロ大会。
 パロパロって名付けられた10色の円が等間隔に描かれた絨毯(じゅうたん)の上で、流れる音楽にあわせて踊るっていう。
 いわゆる音げーの一種なんだが。
 しょうじき、それほど知名度が高いイベントでもねぇ。
 だがどういうわけかノヴァは、5歳くらいころからそれにはまってる。
 ちなみに歴がなげぇってのもあってか、結構な上位ランカーだ。

 「おっおう! あんまり引っ張るなって……転ぶぞ馬鹿」
 「はぁはぁー、良かったぁ。まだ、大丈夫っぽいねっ! ヴォルトォ、少し待っててねっ」

 あんまり運動神経もよくないのにそんなに急ぐなって。
 まだぎりぎり間に合う。
 って、指摘しても聞いてねぇし。

 「いやいや、言われなくても待ちますから」

 ノヴァの台詞に半ばあきれた感じの返事を返して、俺は都合よく誰も座っていないベンチに腰を下ろした。。
 
 「すいませーんっ! あっあの私も参加しまーっす!」
 「おっ、来たな嬢ちゃん! いつも最前列で並んでっから心配だったんだぜぇ?」

 元気が乗りまくって上ずったノヴァの声。
 最高に心地よい響きに目を細める俺の耳に、次の瞬間入ってきたのはしゃがれた親父の声だ。
 パロパロ大会主催者にして受付も担うハゲール・ロンヴァーノ氏、齢F(よわい)は47歳だ。
 ノヴァとはすでに長い付き合いなので、あいつとは親子みたいな感じで話しやがる。
 とうぜん俺とも面識があるが正直なところ、いちいち親しげに俺のノヴァと語りやがって気に食わない。
 
 「おい、おっさん。ノヴァをマスコット扱いするんじゃねぇぞ」

 ので、人込み——ってほどでもない程度にいるエトセトラどもをかき分けおっさんに怒鳴(どな)り込む。
 このおっさんは俺のノヴァを自分の商戦道具に思ってる節(ふし)がある。
 気に入らねぇ。
 そりゃぁ確かに彼女はそこらの女なんかよりよほど美人で客引きには使えるわなぁ。
 だが俺が許さんっ。

 「ヴォッヴォルトッ!?」
 「悪ぃ悪ぃ、でもよヴォル坊。つっても嬢ちゃんはスゲェ美人だし実際人気あるんだぜぇ」

 驚くノヴァの声も素敵だ。
 おい待て、禿頭(とくとう)マッチョ。
 てめぇはいっつも俺を“坊”なんてつけて親しげに呼びやがるが、俺はてめぇになにも心許してねぇぞ。
 あぁーっ、人に好かれるとかなんとかどうでもいいわぁ。
 最初からそんなの分ってだよ。

 ただ俺は……俺はぁ、ノヴァに他の野郎の目が向けられてるのが気に食わないだけだ。
 今日こそは言ってやりたいことがある。
 思い切って言ってやろう、そう身を乗り出したとき。 
 ノヴァのエルボーが俺のわき腹に命中。
 俺は思わずよろけ苦悶(くもん)の表情を浮かべ身をよじらす。

 「まぁまぁ、ヴォルトォ……周りが見てるから、さ?」
 「ちっ」

 俺は周りを見回して撤退した。
 もちろん周囲の目を気にしてとかじゃなくて、ノヴァがお願いしているからだ。
 俺はふたたびベンチに戻って座る。
 
 5分くらいしてノヴァが嬉しそうな表情で戻ってきた。
 どうやらおっさんになにやら笑顔になるようなことを言われたらしいな。
 嫉妬丸出しに苛立って柄(がら)にもないことを俺は言う。

 「おっせぇぞノヴァ。受付にどんだけかかってんだ!?」
 「もーぅ、ヴォルト変に気にしすぎぃ! もっと、泰然自若(たいぜんじじゃく)と構えててよぉ」

 とうぜんながら彼女は俺が苛立っている理由を分ってて。
 少し呆れた調子でつぶやく。
 少し経って顔を見合わせて笑い合い、手を繋いで歩き出す。
 ノヴァの歩幅に歩くのが好きだ。
 そんなささやかだけど俺にとって絶対的な小さな幸せをかみ締めていたとき。
 とつぜん、後ろから良く通ったハスキーな声が響く。

 「そこの君! そこのツインテールの君だよ!」
 
 悪寒(おかん)。
 耳にした瞬間に感じたのはそれ。
 背筋に無数の棘(とげ)が刺さったかのような痛み。
 ただの寒気じゃなくて確信めいた不安となってそれは俺の胸中に広がっていく。
 心の堤防に小さな隙間が開いて少しずつひび割れやがて砕けるような予感。 
  
 嫉妬して笑って手ぇ繋いで愚痴を言う。
 そして子供は何人がいいとか将来ラストシャンバラにいくとか、未来や夢を語る。
 そんな日常がこれからもずっと続くってこのときの俺は思ってた。

 あぁ、あの時感じた痛みがまた——



 
  

End

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