複雑・ファジー小説
- Re: 神様チルドレン【オリキャラ募集中】 ( No.26 )
- 日時: 2012/12/12 21:41
- 名前: 三月兎 (ID: eldbtQ7Y)
「それと……きてそうそう悪いけど、今回まいは抜けてもらいたいんだ」
「ええ!なんで!?」
遠慮がちに、しかし突然響の放った言葉に、まいはおもわず叫んだ。響は続ける。
「相手は大富豪なんだよ。警備が半端じゃないことはもうわかってる。今までのヤクザたちはアイドルにあまり興味がなかったから少し顔を隠せば気づかれなかったけど、警備員なんて多種多用なわけだし」
「それはそうですけど、その辺は純一君がなんとかしてくれるじゃん」
「純一の体力がもたなかったらどうするの?」
唇を尖らせるまいに、響は呆れたように言った。
「それは……!」
「俺だってまいにも参加してほしい。だけど人気も出て来て忙しいだろ?まいがテレビ局にいないと大騒ぎになる」
「その辺は問題ないわ」
まいがなにかいう前に語る響に、詩織は声をあげた。
まいも響も、同時に詩織を見つめる。
「私の能力で、テレビ局にいるようにみせれば大丈夫でしょ?」
「そうですよぉ!やっぱり仕事は皆でやらないと!それに団長もらいつも言ってるじゃないですかぁ!「皆揃っての俺たちだ」だって!」
たんたんとした口調で言う詩織に続き、美雨も響に異議を唱えた。
女の子3人の勢いにたじろぎながらも、響はそれによって考えるそぶりをみせる。
「……そうだな。悪かったよ。じゃあまいと詩織は今から、テレビ局に行って準備してきてくれ。終わったら連絡をくれると助かる」
「了解」
「え〜、私今来たばっかだよ〜?」
なおもうだうだとし続けるまいに、「誰のためだと思ってんの!?」と怒鳴りつけながら、詩織は大股でリビングを出て行った。その右手はまいの左手を、がっしり掴んでいる。
「……それにしても、俺やまいより遅いなんて影無さんたちは何をやってるんだ?」
「そうだね」
樹は小さく呟いて、ちらりと響に視線をやった。
響は答えたが、特に気にしてはいないらしい。鼻歌交じりに、iPhoneの画面を指でなぞり始める。
「ショータイムが近づいている」
誰かがポツリとそう言った。
*
「おはようございまーす!」
「こ、こんにちは……」
まいは飛び切りの作り笑顔で、テレビ局の中へと入って行く。
その後ろから、詩織が緊張で顔をこわばらせながら室内に足を踏み入れた。
「しおりん、もっと楽しもうよー!」
「ちょ……まいと一緒にしないで!」
全く緊張感のないまいを睨みつけ、「で、マネージャーは?」と付け加えた。
まいは早足になりながら、テレビ局の中を見回す。そして曲がり角の前で足を止めた。
「あの人だよ」
わざとらしく声の音量を下げ、まいは男性を指差す。男性黒髪に大きなメガネをかけており、いかにも弱そうな雰囲気をたずさえていた。
「……あの人ね」.
詩織は男性を確認し、持っていたカバンからスケッチブックと赤い色鉛筆をとりだす。
そして色鉛筆を持ち、スケッチブックに芯を走らせた。
真っ白だったスケッチブックは、徐々に赤い何かが描かれていく。
集中している詩織からは、不思議な青いオーラが放たれていた。
ふわふわと髪の毛の先は浮かんでいるようにすら見える。
「できた……!」
詩織がそう声を漏らした瞬間青いオーラはふっと消え、同時に目の前に青い煙が現れた。
もくもくとした煙が消える頃、そこには一人の少女の姿があった。
茶色いボブに明るいオレンジの瞳。その容姿はまいと瓜二つ、いや同じだった。
「まいのかわりにアイドル活動して。できるわよね?」
詩織の言葉に【まい】はこくりとうなずき、曲がり角を曲がって消えて行った。
そしてその先からは「まいちゃん!どこ行ってたのさぁ!」と、オドオドした男性の声が聞こえる。
まいはその様子を耳で聞きながら、先ほど詩織がかいたスケッチブックを覗き込んだ。
そして感嘆の声を漏らす。
「相変わらずすごいねぇ!しおりんの能力」
「な、なによ今さら!当たり前じゃない!」
詩織は少し頬を紅潮させながら、そっぽを向いてそう言った。
彼女の能力はスケッチブックに書いたものを、確実に実物として表す能力である。これだけでもかなりすごい能力だが、まいが言ったのはそこではなかった。
まいは心の中で(こんな絵から私が出来上がることがだけど……)と考えつつ、もう一度スケッチブックを見直す。
そこにあるのはまいとは似てもにつかないほどの絵だった。もはや女子校生の絵とも言えないほどにド下手である。
人間とも言いにくい物体を書いて起きながら、どうしてしっかりと自分が出来上がったのか、まいはつくづく不思議に思うのだった。