複雑・ファジー小説

Re: 神様チルドレン【オリキャラ募集中】 ( No.33 )
日時: 2013/01/05 22:38
名前: 三月兎 (ID: /dHAoPqW)

「ーーっはぁ、はぁ……」

朔は思わず壁にもたれかかる。
コントロール室方面の警備員たちと連絡を取れなかったため、雨宮の命令で彼が確認しに行くことになったのだ。
しかし、距離が長すぎる。どうしてだろうか一向にコントロール室は見えてこない。
戦闘を含めて運動神経の鈍い彼には、正直な話辛くなるほど屋敷は広かった。

「この辺なんだけどな……コントロール室」

朔は真っ暗闇で目を凝らす。暗さに目が慣れてきたとはいえ、視界は万全ではない。
コートのポケットからスマホを取り出し「……はぁ」と声を漏らした。

「やっぱり圏外か……。つながらないな。田舎すぎる」

表情を曇らせつつスマホをしまい、再び歩き出す。
しかし今だに見つからない。コントロール室もだが、連絡の取れなくなった警備員たちが。
それどころか人の気配すら……しない。

「どうなっているんだ……」
「あれー?まだいたんですかー?」

突然の声に、朔は思わずびくりと肩を動かした。
当然だ。気配はしないと思っていたのだから。
目の前から聞こえた声の主を必死に探すと、暗闇の中で何かが動いているのがわかった。1人ではないようだ。
しかし、朔も本物の刑事である。目の前に人間がいるというのに、気づけないなんてあり得ない。

「誰だ!」

動揺を悟られないよう声を張り上げる。
すると、影の一つが一歩前に出てきた。ギリギリ顔が見える距離だ。

そこには金髪の少年が立っていた。
パーティー参加者の子供かとも思ったが、金色の前髪を赤いピンで止めていてワイシャツの上には紫のパーカーを羽織っている。
とても出席できる服装ではない。

「初めまして、一ノ瀬涼といいます」

涼はキュッと目を細めて、男にしては可愛らしい笑みを見せた。
朔は怪訝そうに顔をしかめる。
聞きたいことがいっぱいあるのだ。なぜここにいるのか、どうして名を名乗るのか、一体なにをしていたのか、どうやってこの屋敷に入ったのか……。
しかし、どれ一つとして口から出てこない。喉の奥でつっかえて、気持ち悪さすら感じる。

そんな朔を気にせず、涼は再び口を開いた。

「あなたの大嫌いな【神様チルドレン】の人間ですよ?」
「っな……!」

涼の口から漏れたとんでもない単語に、朔は息が詰まるような感覚に襲われた。

信じたくない。いや、信じられない。
自分たちが警視庁全体の信頼をなくしてまで追い求めていた組織のメンバーが子供だということを。
もちろん、なぜそれを名乗ったのか、どうして自分が神様チルドレンを追っていることを知っているのか、さっぱり理由もわからない。

「……わけのわからないことを言わないでください。ここは危険です。避難した方がい」
「えー?信じてくださいよー」

冷静に「あり得ない」と考え直し注意する朔に、涼は不満げに言った。
その時、カツンカツンと革靴の床につく音が響いた。

そして暗闇の中から、涼といたであろう男女が現れる。
秀才そうな青年と、可愛らしいボブヘアの少女。
男女を見た途端、涼はなぜか小さく首を降った。

「航さん、まいちゃん。僕一人でいいや」

……おかしい。
表情には消して出さず、朔は心の底でつぶやく。
「大嫌いな神様チルドレン」と涼が言ったということは、朔が警察であると彼は気がついていると思っていた。
しかし、そんな追われる身の人間が、あっさりと自分や仲間の名をバラすだろうか。まいは顔に鼻眼鏡をかけているが、涼と航は変装もしていない。

「わかった……くれぐれも我を忘れるなよ」

航は涼の耳に顔を近づけ、小声で囁いた。そして乱暴にまいの腕を掴み、勢いよく地面を蹴る。

「っあ!」

朔が声をこぼす前に、猛スピードで航とまいは彼の横を走り抜けた。
朔はまいのもう片方の手を掴もうと手を伸ばし、叫ぶような声で言った。

「待て!お前たちはいったい何者なんだ!」

しかし、朔の伸ばす手はまいには届かず、虚しく空をかいて止まってしまった。
涼が彼の背中に手をかけたことで。

「……っ」

朔は振り返りざまに涼の手を遠ざけ、彼に挑むような視線を向ける。
普段ぼーっとしてるといっても、やはりプロの刑事だ。ピリピリとした空気がその場に流れ始めた。
涼はフフッと口角をあげ笑う。

「刑事さんの相手は僕でしょ?」
「……どういう意味ですか」

朔は少しだけ声をうわずらせた。そして、涼はその瞬間を見逃してはいなかった。

瞬時に右足に力を込め、凄まじい力で朔の横腹に足をふるった。
朔はあまりの距離の近さと涼の動きの速さによけることができず、咄嗟に右腕で体をかばう。
体を守った彼の右腕からは、ギシギシと骨のきしむ音がした。

「っうぐ……!」

痛みに顔をしかめながら、朔は後ろに飛び退き涼と間合いをとる。
腕はジンジンと熱を持ち、コートの上からでも腫れ上がっているのがわかった。

(腕がまともに動かない……!骨が折れた?……足に鉄でも仕込んでるのか……?)

混乱する頭を必死に整理しようとする朔に、涼は再び口角をあげた。
先ほどまで見せていた可愛らしい笑みではない。何かを企んでいるような不敵な笑みだった。

そして涼はいきなり走り出す。
朔のとった間合いを一気に詰め、彼の首元に手を伸ばした。その勢いのままに彼の首を掴み、強い力で壁に叩きつける。

「がっ……!」

ガンッという頭部を壁に打つ音と共に、朔の口から短いうめき声が漏れた。
一瞬朔の視界が真っ暗になり、その中で火花が散る。
グラグラと揺れる頭の中で、必死に意識を保ち口を開いた。

「くっ……は、なせ……!」

朔は自分の首を締め付ける涼の腕を掴んだ。朔の手が震えているのは、力が入らないところを必死に動かしているからだろう。

「……残念ですねぇ、刑事さん。自分よりも年下の、こんな子供に追い詰められて」

涼は片手で朔を封じ込んでいた。
ニヤニヤと意地悪そうに笑う彼は、細身な朔よりさらに細く、筋肉もそんなについているようには見えない。身長も朔よりずっと低かった。

それなのに、朔は彼の腕をふりほどけない。
それどころか、涼の首を占める力はどんどん強くなり、酸素がまともに送られてこなくなる。

「苦しそうだね刑事さん。ね、取引しようよ」
「と、……りひ……き?」

朔はかすれた声で涼に聞き返す。涼はこくっと頷いた。

「僕らの仲間にならない?」

涼の言葉に、朔は大きく瞳を見開いた。
口の中を乾いた空気が行き来し、喉を通る唾は酸っぱく感じる。

「な、……にを……」

取引中も警戒心を解かず首をしめ続ける涼に、朔はもう一度聞いていた。
涼は気にせずそれに答える。

「スパイになってほしいんだ。警察の情報を回してくれればそれで十分。生かしてあげるよ?まだ生きたいでしょう?警察なんて偽善者の集団にいたって気づけることも少ない。僕らの正義も理解できるよ」

耳を疑った。裏切れというのだろうか。
仲間というのは神様チルドレンのことなのだろう。もうこの時点で、涼が神様チルドレンの人間であると、朔は認めていた。
なんてことを言ってくれるのだろうか……朔の脳内で、フツフツと何かが沸き起こる。

「ふざ……!ふざけるなあ!」

朔は声を振り絞り、怒声を響かせた。面倒くさがりの彼が放った、人生最大の大声だ。

「僕は……警察は……確かに弱いかもしれません……!闇の中から救えなかった人間も、この世に溢れているでしょう。でも……それでも僕は君たちの手に堕ちたりしない。僕は……」

朔はいったん言葉を区切り、大きく息を吸った。
いつも気だるそうなその瞳は、強い光を帯びている。

「僕は僕の正義を裏切らない!」

凄まじい覇気に、涼は思わず手の力を緩めた。
朔はその瞬間彼を力強く突き飛ばし、コートの懐に手を突っ込む。
黒光りする拳銃を握り、涼が反応するより早く彼に向けた。
引き金に指を伸ばし、その指に力を込める。

バンッという一発の銃声が、屋敷の中に響いた。