複雑・ファジー小説

Re: 神様チルドレン【参照900突破ありがとう!】 ( No.35 )
日時: 2013/01/19 11:55
名前: 三月兎 (ID: UgVNLVY0)

一発の銃声が響き、涼の身体が仰向けに倒れる。
どさっという音と共に、彼はピクリとも動かなくなった。
朔は肩で息をし、ゆっくりと瞳を閉じる。そして倒れこんでいる涼に手を合わせた。

「……ごめんなさい」

かすれた小さい声だった。
朔はスッと目を開け、涼に視線をやる。警察である自分が、子供を撃ち殺してしまったという事実は、彼に重くのしかかっていた。
しかし、そこから目そらす訳にはいかない。警察としての正義を貫くためにも、朔は彼を見つめていた。

そして、ようやくあり得ないことに気がついた。
瞳を見開き、おもわず後ずさる。

「どうして……!」

震える声でそう漏らし、同じように震える手を涼に伸ばした。
自分が銃でうった、彼の胸の傷口に触れる。先ほどまでまったくわからなかったのは、思い込みと混乱からだろう。
その傷口からは、一滴も血液が出ていなかったのだ。

「どうして血がでてないんだ……!?」
「教えてあげようか?」

不意に涼は口を開いた。ギョッとしてそちらを見ると、彼はまぶたを開き薄笑いを浮かべている。
確かに打ち込んだはずの銃弾をもろともせず、彼は動けずにいる朔を押しのけるように上半身を起こした。

そしてクックと楽しげに肩を揺らし始める。

「だってさぁ、僕『お人形』だもん」
「……え?」

涼はニヤリと口角をあげ、朔にそう言った。
朔は目の前の現実を受け入れられず、ただ愕然とした表情で固まっている。涼が能力者だということは、とうに頭から離れていた。

「お兄さんは結局全部忘れちゃうんだし、言ってあげるね。僕は『戦闘人形(バトルドール)』っていう能力を持ってるんだ。これはね、そのまま戦闘だけをする人形になるってことなんだよ。一定時間の間だけ、僕の身体は人じゃなくなるんだ」

涼は言い終わると、ゆっくりと立ち上がった。
朔はそれに反応し、再び後ずさる。

涼はにっこりと可愛らしい笑みを浮かべ、いつのまにか何かを握っていた右手を朔に向けた。
それは、まるで子供が使うような水鉄砲の姿をしていた。
朔は目を丸くし、涼の顔を見た……その時だった。

涼が引金を引いた瞬間、ドスっと鈍い音がして、水ではないものが朔の肩に刺さる。
大きく太いそれは、注射針のようだった。じわじわと血がにじみ出てくるとともに、視界が暗くなってくる。
朔はガクリと膝をつき、自分に刺さったものを引き抜いた。しかし、めまいはさらに酷くなる。

「安心してよ。それただの麻酔銃だから」

涼はフフッと妖艶な笑みを浮かべ、小さくうめいている朔に視線を合わせるようにしゃがんだ。

「さっきも言ったけど……お兄さんは結局全部忘れちゃうんだ。でも、これだけは覚えといてね。僕ら『正義』に生かされたんだって」

涼はそれだけ言うと立ち上がり、策に背を向けて歩き出した。
朔は薄れゆく意識の中、必死に彼に手を伸ばす。

しかし、その手は空を掴み、そのまま地に落ちて行った。